『その方はここにはおられない

『その方はここにはおられない。甦られたのだ。』　　ルカ24：1－7　　主の2005.3.27イースター礼拝

ある牧師が、田舎の小さな教会で、イエス様のお話を終わると、ひとりのおばあさんが、前に進み出て尋ねたそうです。「先生、イエス様は何とまぁー、情け深い親切なお方でしょう。そんなに偉い方では、お墓もさぞかし立派なことでしょう。ところでねえ先生、私はぜひ一度、イエス様のお墓参りに行きたいのものですが・・・」。牧師はビックリして、「おばあさん、イエスさまのお墓は空っぽですよ。イエス様は私たちの罪のために十字架にかかり、おなくなりになったのですが、３日目に復活なさって、今も生きていらっしゃって、天でおばあさんのためにお祈りしていて下さいます。聖書の中に、『キリスト・イエスは死んで、否、よみがえって、神の右に座し、また、私たちのために執り成してくださるのである』（ローマ8：34）と記してあります」。そうお話すると、おばあさんは、「ひゃあ、それはますますありがたいことで・・・」と言って、喜んでいたということです。

本日は主イエス・キリストの甦りを記念し、お祝いするイースター・主の復活祭です。どちらかというと、教会の祝日はクリスマスが有名になっています。しか、し教会の歴史を見てみますと、最初の頃はイースターを盛大にお祝いし、クリスマスはだいぶ遅れてからお祝いするようになったようです。キリストは今から約2000年前、この世に生まれ、３３年半の生涯の最後に、人の罪の身代りに十字架に命を捧げた救主です。罪の罰は死です。そこでキリストは十字架の三日後に死を打ち破って甦り、キリストを信じる者は罪を赦され、永遠の命が与えられることを明らかに現して下さいました。もはや死は罪の罰ではなくなり、天国に至る通過点にしか過ぎなくなったのです。

本日の聖書はルカ24：1－7です。5－６節「あなた方は、なぜ生きた方を死人の中に尋ねているのか。その方・イエス・キリストはここ（墓の中）にはおられない。甦えられたのだ」という聖句をぜひ暗誦して下さい。ご一緒に主の復活のメッセージを聴き、聖霊によって祈り、イエス様の甦りの命に溢れて、一週間の旅路を出発して参りましょう。

内　容

1、キリストは、一度は死んだが、甦って生きており、主を求める者に現れて下さる救主である。

2、キリストは、私たちを支え、導く、生きている、まことの救主である。

資料問題

福音書はイエス・キリストの復活の模様については記していないが、復活の事実を、「からっぽの墓」（３節）、天使の証言（５－７節）、復活のキリストの顕現（１３－４３節）によって明確に示している。キリストの十字架、甦りは聖書の中の最も大切な使信である（Ⅰコリント15：1－8）。

キリストが復活後に現れた様子。1、マグダラのマリヤ（マルコ16：9－11、ヨハネ20：10－18）、2、墓参りに来た女性達（マタイ28：8－10）、3、エルサレムにいたペテロ（ルカ24：34、Ⅰコリ15：5）、4、二人の旅人（マルコ16：12－13、ルカ24；13－34）、5、戸を閉めて部屋にいた１０人の弟子達（マルコ16：14、ルカ24：36－43、ヨハネ20：19－25）、6、トマスを含む11弟子（ヨハネ20：26－31、Ⅰコリ15：5）、7、漁をしていたペテロなど７人の弟子（ヨハネ21：1－14）、8、山の上で11弟子達（マタイ28：16－20）、9、５００人（Ⅰコリ15：6）、10、主の兄弟ヤコブ（Ⅰコリ15：7）、11、昇天の主を見た者達（ルカ24：44－49、使徒1：3－8）。

1、キリストは、一度は死んだが、甦って生きており、主を求める者に現れて下さる救主である。

世界には様々な宗教がありますが、どの宗教にも教祖といわれる人がいます。教祖が手を振ると超能力のようなもので人が倒れたり、ある教祖は人の運命を占い、また他の教祖は霊界の様子をまことしやかに述べたりしています。どの宗教も教祖を人間以上の者として神格化し、絶対の存在とします。しかし、それぞれの宗教が抱えている共通の問題は、どの教祖も死ぬということです。素晴らしい教祖として崇められても、所詮は人間ですから死んで行くのは当然です。

ではイエス・キリストはどうなのでしょうか・・・。キリストは自らのことを、「恐れるな。わたしは初めであり、終りであり、また、生きている者である。わたしは死んだことはあるが、見よ、世々限りなく生きている者である。そして死と黄泉（よみ）とのカギを持っている」と言われています（黙示録1：17－18）。キリストが、この世に来られたのは、十字架で死ぬためでした。死ぬ目的は人間の罪の身代わりとなるためでした。そして、罪の罰である死を滅ぼすために、甦り、私たちに永遠の命を与えて下さるためでした

ところで、人間を苦しめている罪とは一体何でしょうか。罪とは神に背いていることを指しています。神様は土のちりで、ご自分の形に似せて人間を形作り、その鼻から息を吹き込み、人を生きる者にして下さいました（創世記1：27、2：7）。神様の息吹を受けたとは、人間の命の源は神様であることを示しています。鼻から息を吹きいれられたとは、人間的に描写すれば、神様が土のちりで形作った人間をだき抱え、顔を近づけて息を吹き込むことを連想させ、人間を大切にし、人間を愛しておられる姿を示しています。私事になりますが、生まれた直後の自分の子ども、孫を抱き上げた時のことですが、赤ん坊を落とさないように、細心の注意を込めて、慈しみを込めて抱きあげる。赤ん坊のほうは、ただ抱かれるままに安心して身を委ねている。その姿を見た時に、そうだ、私も神様の愛の手によって抱きかかえられているのだ。赤子が親に全身全霊を任せて平安であるように、私も神様に身を任せていれば、安全に守られ、支えられるということを思って、神様に感謝したことを思い出します。

しかし、人間はサタンに騙され、神様の愛の手を振り払い、神様の御言葉に逆らい、自分勝手に生きる道へと堕落して行きました（創世記3章）。それが罪です。命の源である神様から離れているので、人間は死んで、永遠の滅びに向かう惨めな者になってしまいました。愛の源である神様を離れているので、人間の心には神を愛する愛がなく、また、他の人への思いやり、慈しみ、愛する心が失われ、「自分さえ良ければいい」という自己中心な者になっています。新聞に「人生案内」という欄が掲載されていますが、相談の殆どが人間関係の問題です。夫と妻の関係、親子関係のあり方、親戚付き合い、友人との問題、男女間のトラブルなどの相談を読みながら、「自己中心を棄てて、お互いに相手をほんのちょっとでも思いやれば問題が解決するのに」と感じます。しかし、愛の源である神様から離れているので、愛を表すことが出来ずにトラブルになっています。

人間の罪の根本的解決はあるのでしょうか。端的に言えば、神様の許に帰れば解決の道があります。だが罪の力に負けて、人間は素直に、単純に神様に立ち返ることが出来ないでいます。しかし、「神は愛なり！」です（Ⅰヨハネ4：8）。素晴らしいことに、聖書の神様は人間を見捨てるようなことをせず、ご自分の方から救いの手を差し伸べて下さる愛の神様です。

「神は愛である。・・・私たちが神を愛したのではなく、神が私たちを愛して下さって、私たちの罪のために贖いの供え物として御子をお遣わしになった。ここに愛がある」（Ⅰヨハ4：8－10）。

この御言葉のとおりに、キリストは私たちの罪の身代わりになって、十字架で死んで下さいました。しかも、キリストは十字架の三日後に死から甦り、罪の罰である死を討ち滅ぼしたのです。キリストの復活を天使が告げています、「あなた方は、なぜ生きた方を死人の中に尋ねているのか。その方はここ（墓場）にはおられない。よみがえられたのだ」（５節後半―６前半）。

キリストの十字架を信じると、罪が赦されます。キリストの復活によって、死は罪の罰としての力を失い、死は永遠の天国に入る入り口になりました。死はもはや恐ろしいものではないのです。使徒パウロは、「死は勝利にのまれてしまった。死よ、おまえの勝利は、どこにあるのか。死よ、おまえのとげは、どこにニあるのか」（Ⅰコリ15：55）と勝利を宣言しています。

私たちは、キリストが甦った救主であることを信じています。なぜ、どのように信じたのかという事

よりも、キリストによって罪が赦され、生まれ変わり（新生）、永遠の命を与えられている事実を感謝しています（永生）。キリストは生きておられます。キリストは求める全ての者に、聖霊によって信仰を与えて下さいます。

加賀乙彦というカトリックの作家がいます（１９２９年生まれ）。この方は５８歳のある時、信仰を求めて夫婦で泊まり込んで、友人の神父にあらゆる疑問、質問をぶつけた。三日目、１９８７年９月５日昼頃、庭に座していたが、もう何も質問することがなくなってしまった。すると曇っていた空が裂けて、そこから一条の日差しが庭をぱっと明るくした。何かすき透った光が心の奥底まで照らし出す感覚があり、心が風に乗って漂い、体も軽くなって、ふわふわと浮き上がるような気がして、喜びが身に満ちた、「何だか気持がすっかり軽くなりました。嬉しくてなりません」というと、妻も同じ内容の告白をした。（この後に夫婦で洗礼を受けます）。彼は言っています。・・・言ってみれば、知識が飛び去り、一気に信仰の世界に入ったのだ。知識にはいつも疑問がつきものである。ところが信仰の世界には疑問はない。それは、イエス・キリストを百パーセント信じて、その十字架と復活の生涯に自分を参加させたいという、内なる衝動であり、喜びであった、そう信仰が光り輝く喜びであるという体験は、キリスト教について、おびただしい知識を積んでも得られない。むしろ知識という疑いを含む心の作用が信仰の障害になる。・・・彼は更に言います・・・私が百パーセント信じるという一歩を踏み出した時には、自負は少しもなく、自分は駄目な人間、罪深い人間だという謙虚と、それに伴う非常な、かつて経験したことのない喜びだけがあった。はっきり言おう。知識なんてどうでもよくなったのだ。その境地を私は、そして妻も、瞬時に感得したのである。・・・イエスは「あなたの信仰があなたを救った」という。イエスの教えは、まず信じることが先にあって、そのあとでよきこと、福音が訪れるということである。

キリストは十字架によって罪を赦し、甦りによって永遠の命を確かにして下さいました。キリストを救主として、また主として信じ、洗礼を受け、クリスチャンとして生きていることを感謝しましょう。キリストを心にハッキリと迎えていない方は、今、この時に、祈って心の扉を開いてキリストを迎え入れて下さい。まだ洗礼を受けていない方は、今が恵みの時、救いの日であることを信じ、「洗礼を受けます」と祈って下さい。キリストは生きておられます。祈り求める私たちを導いて下さいます。

2，キリストは、私たちを支え、導く、まことの救主である。

マルティン・ルッター（1483－1546）は、１６世紀に、「救いはキリストのみにあり」という聖書の信仰を掲げ、宗教改革を押し進めた人物です。ある時、彼がひどく落ち込んで暗い顔をしてふさぎ込んでいた。すると妻が喪服を着て彼の前に立った。「どうしたのだ。誰かの葬式かね」と聞くと、「いいえ、あなたに元気がないのは、あなたの神が死んだからです。それで喪服を着ています」。ルッターは妻の言葉にハッとして、「私の救主、主であるイエス・キリストは生きておられる」という信仰に立ち戻って勝利を得て行きます。イエス・キリストは、きのうも、きょうも、いつまでも変わることがない永遠に生きておられる救主です（ヘブル13：8）。私の祈りは、「どんな時でも、生きているキリストに縋って行くように信仰を強めて下さい」ということです。

キリストは生きておられます。どうやってキリストの生きていることを知るのでしょうか。私は高校時代に、洗礼を受けました。洗礼を受けてから、半年ぐらいかかって聖書を初めから終わりまで通読しました。そして分かったことは、キリストが生きておられる実在の神であるという事でした。それを理論的に説明する事は出来ません。しかし聖書を読んで行くうちに、生きているキリストが鮮明になり、親しく感じられるようになったのです。その頃、牧師から「仏教からキリストへ」という本を借りて読みました。ひとりのお坊さんがクリスチャンになり、住職をやめて牧師になったという内容でした。今でもその本を時々読み返しています。皆さんも一度は読んでみて下さい。題名がいいと思います。「仏教からキリスト教へ」という題名であれば、単なる比較宗教論のように感じます。しかし、「仏教からキリストへ」という題名によって、唯一の生きておられるキリストのお名前が際だって印象づけられます。著者は亀谷凌雲（かめがいりょううん）牧師です（1883－1973）。彼は、富山の寺の長男として生まれ、仏典に親しみながら、東大哲学科を出て、教師をした後に寺の住職になります。凌雲師の心を悩ましていたのは心の救いの問題です。彼は仏教徒として仏を信仰し、仏の実体を表して下さった阿弥陀如来にすがってきた。ところが阿弥陀に、どんなに求めても答がなく、心が満たされない。やがて阿弥陀は理想のお方であるが、本当は実在しない空想上のものであるということに気づきます。凌雲師は聖書を読み、キリストに惹かれて行きます。やがてキリストは神の子であるが、受肉して人間として歴史の中に実在した救主である。十字架と復活により、人の罪を赦し、永遠の命を与えて下さるお方であることを信じ、はじめて心に平安と救いの喜びを得ることが出来、天国への希望を与えられます。彼は猛反対の中で住職を辞し、牧師になり、郷里で伝道を始めます。

凌雲師は、真面目に仏典を研究し、お経に親しみ、阿弥陀仏に縋って、救いを求めていました。しかし、実在しない阿弥陀如来の虚しさを知り、キリストを信じた時に救いの喜びを与えられ、仏教からキリストへの大転換の人生を歩むようになりました。住職を辞し、寺を棄て、生きているキリストに縋り、牧師となって生涯を全うし、８４歳で天国に凱旋して行かれました。

イエス・キリストは生きておられます。生きているキリストに縋って行くのが信仰です。キリストは言われます、「何事でもわたしの名によって願うならば、わたしはそれをかなえてあげよう」（ヨハネ14：14）。キリストは死をうち破って生きている救主です。祈り求める者に平安を与え、物事すべてを益になしたもう恵みの主です（ローマ8：28）。ある婦人が、深い悩みを抱えて、縋るような気持でイエス様の十字架と復活の話を個人的に聴いて、その場でイエス様を罪からの救主、また人生を導く主として自分の心の中にお迎えした。早速、毎日聖書を読み始めた。すると、「あなたは祈る時、自分の部屋に入り、戸を閉じて、隠れた所においでになるあなたの父に祈りなさい。すると、隠れた事を見ておられるあなたの父は報いて下さるであろう」（マタイ6：6）という御言葉を読んだ。そこで朝、部屋を閉め、お祈りをするようにした。抱えている問題はまだ解決していないが、主に縋って行く恵みを与えられています。この方は、キリストを肉の目をもって見たわけではないのですが、しかし生きているキリストを信じることによって心の平安を与えられ、何事でも祈ることが出来るようになったのです。それは主が生きておられ、祈りに答えて下さるからです。

祈りましょう。生きている救主イエス・キリストがあなたの問題に答えて下さいます。

まとめー「あなたがたは、なぜ生きた方を死人の中に尋ねているのか。その方はここにはおられない。よみがえられたのだ」（ルカ24：5－6）を心に刻んで下さい。

キリストは、私たちの罪の身代わりになって、一度は死にましたが、死をうち破ってよみがえって永遠に生きている救主です。

キリストは、呼べば答えて下さる主です。主に縋って祈りましょう。必ず答があります。あなたの問題、課題は何でしょうか。生きている主に縋って、心の底から祈りましょう。恵みの座で祈りましょう。

祈　り

天地の主である神様、独り子イエス・キリストのよみがえりをお祝いするイースターの恵みに感謝します。主は生きておられます。イエス様、十字架によって罪を滅ぼし、罪の罰である死をうち破って、私たちに永遠の命を下さったことを感謝します。聖霊よ、私たちに祈りを与えて下さい。イエス・キリストの御名によって祈るように、御霊自ら言い難きうめきをもって、私たちの祈りを導いて下さい。「わたしは主であってあなたを癒す者である」、生きているイエス様の御力によって病気を癒して下さい。戦いの中にある方に勝利の力を、導きを求める者に解決の道を示して下さい。十字架に上り、甦って救いと勝利を与えて下さったイエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献ルカ注解―フランシスコ会、LAB、バークレー、黒崎、新約略解。「キリストと出会うー洗礼を受けるまで・日本基督教団」「ダブリンのろば・高木輝夫・クリスチャン社」「仏教からキリストへ・亀谷凌雲・亀谷凌雲先生図書保存会」