神の力、知恵であるキリストの十字架　コリント第一1：18

神の力、神の知恵であるキリストの十字架　コリント第一1：18－25　　　　　　　　主の2005.5.１礼拝

明治から昭和初期にかけて内村鑑三（1861－1930）という伝道者がいました。「聖書の研究」という雑誌によって多くの方々にキリストの福音を伝え、毎週日曜日は自宅を集会場にして礼拝の集まりをしていました。彼は若い時に罪の問題で悩みましたが、キリストの十字架を信じることによって、罪の赦しと永遠の命を受け、新しく生まれ変わる恵みを受けました。彼は言います、「キリスト教はいかなる教えであるか。キリストの十字架の教えである。Christianity is Crucifiｘianity（内村の造語）.　キリストが人類の罪を担いて、しかり、私の罪を担いて、十字架につけられたもうた。そして私の救わるるは、単にこの事を信ずるによるとの事、そのことを教うるのがキリスト教である」。私は20代前半にこの言葉を読んで、まことにそのとおりであるという強い印象を受けた事を思い出します。

本日はコリント第一1:18－25です。パウロは、「十字架の言（ことば）は、滅び行く者には愚かであるが、救いにあずかるわたしたちには、神の力である」（18節）と力強く宣言しています。コリントの手紙を含めて、彼の記した手紙が新約聖書に13通ありますが、どの手紙にも、「誰でもキリストの十字架によって救われる」という福音の真髄が記されています。私たちも十字架を信じて、罪が赦され、新しく生まれ変わるという恵みを与えられ、この世を生き抜く力と、天国に向かって進んで行く希望が与えられていることを感謝します。今朝、神の力、神の知恵であるキリストの十字架のメッセージによって心を恵まれ、祈って新しい一週間の旅路を出発して参りましょう。

内　容

1、キリストの十字架にのみ救いがある。1：18

2、キリストの十字架こそ神の力、神の知恵である。1：19－25

資料問題

18節「言（ことば）ホ・ロゴス」とは内容、教理の意。十字架の教え（共同訳）。19節はギリシャ語７０人訳イザヤ29：14からの引用。「むなしくする」は詩篇33:10参照。20節「知者」「学者」はイザヤ19：14、33:18参照。21節「神の知恵」は創造のわざに反映している神の知恵（箴言3：19,8：22－31）。パウロはローマ1:19－20で知性の働きによって被造物を通して神を知ることができると述べている。ここでは自分の知恵だけに頼る者は神を知ることが出来ないことを述べている。「宣教の愚かさによって信じる者を救う」とは、第一に、この世の学問、芸術、文化によって神に到達しようとしたバベル的な人間的向上の力によるのではなく、神から告げられる特別啓示だけが神を知らしめるのである。第二に、知恵をつくして努力するのではなく、神が知らせて下さる事を聞くだけで信じることが出来るのであり、救いは神から授けられるプレゼントである。22節「ユダヤ人はしるしを請う」（マタイ12：38、ヨハネ4：28）。キリストのしるしは十字架における自分の死（マタイ12：39－40、ヨハネ3：14－16、ローマ5：8）である。ユダヤ人は栄光ある地上的メシアを待望していたので、十字架を信じることができなかったのである（ローマ9：32）。「ギリシャ人は知恵を求める」、知恵（ソフィア）を愛する（フィレオー）のが哲学（フィロソフィア）。ギリシャ人の神は不死不変であり、神が死ぬということは到底信じられないので、処刑されたイエスが神であることは許せない事であった。

1、キリストの十字架にのみ救いがある。1：18－19

十字架の言（ことば）は、滅び行く者には愚かであるが、救いにあずかるわたしたちには、神の力である。（１８節）

コリントの手紙には信徒同士の争い、道徳的乱れ、偶像問題、聖霊に関する誤解など様々な事柄が取り扱われています。実際的な問題を取り上げながら、パウロは「キリストの十字架が無力になってしまわないためである」（１７節終り）ということを常に考えていました。先週、「パウロから洗礼を受けた」「アポロに教えを受けた」などという四つの派閥が出来て、キリストの十字架によって罪を赦された者であることを忘れて、互いに争っている事が戒められていました。パウロは、キリストにあって同じ思い、同じ考えをもって仲間割れをしないようにと命じ、１８節以下に十字架の恵みを記しています。

１８節、「十字架の言（ことば）は・・・」とはじまっていますが、本当は「なぜならば」というという言葉から始まっているのです。１７節の最後に「キリストの十字架が無力なものになってしまわないためなのである」を受けて、１８節「なぜならば、十字架の言（ことば）は滅び行く者には愚かであるが、救いにあずかる、私たちには神の力である」というふうに続きます。１８節の言（ことば）とは、ここでは十字架の内容、教えを指しています。パウロは、十字架には深い意味がある、十字架には人を救いに導く神の力があるいう事を告げています。そこで、十字架の言（ことば）について三つの点をみておきましょう。

第一に、十字架の言（ことば）とは、イエス・キリストご自身を意味し（ヨハネ1：1－5）、ここでは特にキリストの救いを意味しています。神の御子イエス・キリストが、私たち罪人の身代りになって、十字架の上に死んで下さいました（ロマ5：8）。私たちが罪を悔改め、キリストを救主として信じれば、誰でも救われて神の子になり（ヨハネ1：12）、その名前は天国に登録されます（ルカ10：20）。それが十字架の言（ことば）の内容です。

第二に、十字架の言（ことば）を語る者は、キリストの救いが本当であることを身をもって体験している者です。自分に罪があることを認め、罪から離れようと決意し、悔改めて、イエス・キリストを心の中に迎えた者がクリスチャンです。ですから十字架の言を語ることが出来るのはクリスチャンです。自分の身に体験するためにはキリストを信じるという決断が必要です。昨年「パッション」という映画が大きな話題になり、多くの方々が見て感動したようです。しかし、「素晴らしい」「十字架の場面に迫力があった」という感想に止まり、キリストの十字架の苦しみと死は、自分の罪の身代りであったということに思い至る人が少なかったのが惜しまれます。

第三に、十字架の言（ことば）を信じる者は救われ、信じない者は滅びに至ります。救いに関して聖書は二つの道を示しています。それはキリストを信じるか、或いはキリストを否定するか、のどちらかです。ヨハネは「御子を信じる者は永遠の命を持つ。御子に従わない者は命にあずかることがないばかりか、神の怒りがその上にとどまるのである」（ヨハネ3：36）と告げています。しかし、単に二つの道があるから、そのどちらかをご勝手に、どうぞ選んで下さいという意味ではありません。申命記で主がモーセを通して、「わたしは命と死および祝福と呪いとをあなたの前に置いた。あなたは命を選ばなければならない」（30：19）と語りかけておられます。私たちに対して「あなたは良いほうを、命のほうを、救いのほうを、永遠の命のほうを、キリストを信じるほうを選びなさい」という愛の勧めなのです。

Kさんは一生懸命に働き、一代で一つの会社を築き上げた人です。自分の力を信じて行くタイプで、神仏の助けは必要ないという事で、頑なに無神論の人生を歩んでいました。日本では葬式と言いますと、何をさておいても参列するということが一般的ですが、Kさんは、人は死ねば終りで無になるという事で、葬式にも出ないという方でした。ところが、晩年になって病気になり、入院しました。医薬の効能によって直る事を信じ、闘病生活をおくっていました。息子夫婦はクリスチャンでしたが、Kさんは「見舞いに来てもいいが、祈ってはいけない」と、息子夫婦に言い、最後まで自分の力に頼って行こうとしていました。しかし病気はよくならない、日に日に体力が衰えて行くのを自覚し、はじめて自分の力の限界を思い知ったようです。その時に息子夫婦によって病床に牧師が訪れ、Kさんは生まれて初めてキリストの十字架と復活の言（ことば）を聴き、キリストを信じたのです。信じてすぐに、病床で頭に水を注いで洗礼式が行われました。長年、無信仰で来たのに、たった１回の個人伝道でキリストを信じ、生まれ変わり、永遠の命を受けたのです。「十字架の言は信じる者には神の力である」とありますが、力とはダイナマイトの語源になった言葉で、何かも吹き飛ばしてしまうような神の力です。キリストの十字架に力があります。それは、無神論も、罪についての悩みも、病気の悩みも、罪のために死んで地獄に行くという死の怖れも、何もかも吹き飛ばしてしまうような偉大な力です。Kさんはキリストを信じて、永遠の命を受けたことを、見舞いに来た会社の人々に伝え、キリストを信じてから１０日後に天国に召されて行きました。Kさんがクリスチャンになった事を受けて、多勢の人や取引先の会社関係者が参列して、キリスト教式で葬儀が行われ、十字架と復活の言（ことば）が伝えられました。葬式後の所謂お清めはアルコールなしで行われ、Kさんを偲ぶきよらかな思いに参列者の心が満たされました。（Kさんとは馬場さんのお父さんの事です）。

イエス・キリストの十字架に人を新しくする命の力があります。罪に悩む方はキリストの赦しを求めて祈り、病気の方は癒しを信じて祈り、問題のある方は解決を願って祈りましょう。あらゆる事柄に対して、キリストは私たちを助け、導いて下さる救主です。キリストに頼り、縋って祈りましょう。

2、キリストの十字架こそ神の力、神の知恵である。1：19－25

しかし、わたしたちは、十字架につけられたキリストを宣べ伝える。このキリストは、ユダヤ人には躓かせるもの、異邦人には愚かなものであるが、召された者自身にとっては、ユダヤ人にもギリシャ人にも、神の力、神の知恵たるキリストなのである。（２３－２４節）

パウロは１９節でイザヤ29：14の御言葉を引用して、人間の知恵は神の知恵に及ばないことを示し、20節以下で、この世の知者、学者、論者（議論家）について言及しています。

知者とは、自分の知恵が人生に幸福をもたらします、ということを伝える人のことです。巷には成功した人の言葉とか、どうやったら人生をハッピーにするのかという類の本が氾濫しています。しかし、人生で幸せといわれるようになっても、死後のことについては何も教えてくれません。キリストは私たちの罪の身代りになって十字架で一度は死んだのですが、死を打ち破って今も、そして永遠に生きている救主です。生きているキリストが、この世において私たちを救い、恵みある人生を歩ませ、死んで終りではなく永遠の天国に導いて下さいます。

学者とは律法学者です。彼らは律法の内容を文字で知っているだけです。例えば、「善きサマリア人」の時に出て来る学者は神を愛し、隣人を愛するという事は知っていました。しかし隣人とは誰であるかを具体的に知らず、隣人を愛することを実践しないでいる人でした（ルカ10：25－37）。

　論者（議論家）とはいろいろと議論をしたがる人のことです。例えば、全部ではありませんが、テレビでコメンテーターという立場で好き勝手なことを言っている人がいますが、それと似たようなものです。知者、学者、論者（議論家）はさも何もかも知っているようですが、実は人間について何も分かっていないし、まして神について何も知らないでいる。２１節「この世は自分の知恵によって、神を認めるに至らなかった」とある通りです。

この世とは私たちのことです。何故私たちは神を見出すことが出来ないのでしょうか・・・。それは人間に罪があるからです。罪とは神への反抗心であり、神を愛さないことです。神を知るとは、神を個人的に知り、神を愛する心をもって、神の御言葉に聴き従うことです。しかし、罪があるために、それが出来ないでいるのが人間の姿です。２１節まんなかに「そこで（それゆえ）」という言葉があります。人間が自分の知恵で神を知ろうとしている。だが人間には罪があるので、神を知ることができないでいる。「そこで」神の方から、私たちに救いの道を示して下さったと言うのです。それが「宣教の愚かさによって信じる者を救うこととされたのである」という言葉で表されています。

宣教の愚かさとは何でしょうか・・・。それは神が知らせて下さった教えを信じるということです。人間は一生懸命に自分の知恵によって神を求めたが、罪によって神に近づくことが出来ない（イザヤ59：1－2）。そこで神の方から、人間の罪を赦し、人間が永遠の命を受けて天国に行く道を啓示された。その教えを信じれば、誰でも救われて神の子になるという恵みが与えられます。それがキリストの十字架です（Ⅰヨハネ4：8－10）。キリストは神を表すお方として天から来られ、人間として３３年半の人生を歩まれ、あらゆる人生の苦しみを体験されました（ヘブル4：15）。生涯の最後には罪がないのに、人間の罪を背負い、私たちの身代りになって十字架の上で死んで下さった救主です（ロマ5：8）。誰でも罪を悔改め、キリストの十字架を信じれば、新しく生まれ変わって、天国の民として登録されます（ヨハネ1：12）。キリストを信じた者には聖霊が与えられ、神に祈ることが出来るようになり、祈りを通して神の力を受け、何があっても挫けないで生きる恵みが与えられます（ロマ8：15－17）。

キリストの十字架に対し、ユダヤ人は、救主であれば何か不思議な奇蹟を行うであろうという徴を求めました。ギリシャ人は神の救主が十字架で死ぬなんて不合理であるとして、人間の知恵のレベルで考えました。その結果ユダヤ人もギリシャ人もキリストの十字架に躓いてしまったのです。だが、キリストの十字架を信じた者は生まれ変わって、新しい人生に入る恵みを与えられたのです。それが私たちクリスチャンです。

神学の教科書には、「キリストの贖罪」の項に、キリストの十字架の死の意味から始まって、どこまで十字架の効力が及ぶのかということで２０ページ程が費やされています。そういう神学上の問題はさて置いて＜神の子キリストが十字架上で罪の身代りとなって血を流して死んで下さったことを信じると、罪が赦され、心が軽くなり、罪の圧迫から解放されます。罪を憎み、正しいことを行いたいという力が内から湧いてきます。聖霊によって、キリストの御名によって父なる神に祈るという恵みが与えられます。死んで終りではないので、死の怖れから自由になれます。昨日までは憎いと思っていた人のために祈るように心に愛が生まれてきます。感謝と讃美が生まれ、心に喜びが絶えないという変化が与えられます＞。人は賢いと思い、強いと思っていたが、罪に負けていました。ところがキリストの十字架を信じた時に、人生が恵みに変わったのです。まことに神の愚かさは人間の賢さに勝り、神の弱さは人間よりはるかに優れたものであることが証明されたのです。

私たちは、十字架につけられ、一度は人間の罪のために死にましたが、死を打ち破って甦ったキリストを宣べ伝えます。キリストの十字架にこそ、神の力、神の知恵があり、信じる者を救う命の恵みが溢れているからです。以前に、もはや息を引き取る寸前の方を訪問しました。病院のベッドで昏睡状態のようでしたが、パッと目を開け、意識が明瞭になったのです。すぐに神のこと、罪のこと、キリストの十字架と復活のことを伝えたところ、「イエス・キリストを信じます」という決心を言い表したのです。私の後について、その方は祈りました。それから程なくして天に召されて行きました。十字架の言（ことば）に力があります。キリストの十字架こそが神の力、神の知恵です。意識を失いかけ、死の直前にある人の霊を救う力がキリストの十字架にはあります。キリストの十字架の力は、私たちひとり一人のあらゆる問題に対する解決の力でもあることを信じて、今朝自分の願い、求めることを祈って行きましょう。また家族や友の救いのために祈って行きましょう。

まとめ

1、１８節。十字架にのみ救いがあります。私たちはキリストの十字架によって救われている事を感謝し、この素晴らしいキリストを宣べ伝えて行くように祈りましょう。

2、２３－２４節。この世の知恵ではなく、神の啓示であるイエス・キリストを信じて救われた事を感謝します。人を救う神の力、神の知恵であるキリストの十字架を見上げて、どんな事でも祈りましょう。素晴らしい神の助けが与えられて行きます。キリストの十字架を見上げて祈りましょう。

祈　り

父なる神様、独り子イエス・キリストの十字架によって救われていることを感謝します。十字架に力があり、すべての問題解決のカギがあることを信じます。助けと癒しを求める者にすみやかに応え、癒して下さるようにお願いします。キリストの十字架を見上げて、今週も聖霊に導かれて祈りの中に、喜びの日々を前進させて下さい。

今週４日―５日関東北東教区聖会を祝福し、来週8日の野外礼拝も祝福して下さい。十字架によって全ての人を救い、祈りに応えて下さるイエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献コリント注解―榊原、黒崎、バークレー、フランシスコ会、竹森、佐藤順、LAB。文語略解。

平明訳コリント、塚本訳コリント、内村鑑三・「一日一生」「信仰著作集１５巻」・教文館。