主は限りなき愛をもって我らを愛して下さる

主は限りなき愛をもって我らを愛して下さる　エレミヤ31：2－6　　　　主の2005.9.11礼拝

フランスのユゴー（1802－85）の作で「レ・ミゼラブル」という小説があります。主人公ジャン・ヴアルジャンは妹と妹の７人の子どもを養っていましたが、貧しさのあまり、一切れのパンを盗み、５年の刑を受けます。あまりの重刑に脱獄を２回企て、その結果１９年の刑務所暮らしをします。出獄して来ましたが、「犯罪者である」という事で、どこにも泊めてもらえず、ようやくミリエル司教の家にたどり着きます。ミリエル司教は彼を受け入れ、銀の食器でもてなし、ふかふかのベッドに寝かせます。ところが、彼はミリエル司教の愛を裏切り、銀の食器を盗んで逃げ出します。すぐに捕まって、警官が彼をミリエルの所に連れてきます。「その食器は私がこの人にあげたのです」というミリエル司教の言葉を聞いて、ジャン・ヴアルジャンは衝撃を受けます。彼の心に神に仕えるミリエル司教の愛が染み込み、彼は人生の再出発をします。

本日の聖書箇所はエレミヤ31：2－6です。３節に「わたしは限りなき愛をもってあなたを愛している（永遠の愛をもって、わたしはあなたを愛した）」という主の言葉があります。ジャン・ヴアルジャンは長年の刑務所暮らしで心が捻じ曲がり、恩を仇で返すということをしました。しかしミリエル司教の愛によって、良心に目覚めて人生の再出発をしました。愛は人を変えます。本日の聖書の中に示された愛は、私たち全ての者に向けられているまことの愛です。どんなに罪を犯していても、失敗だらけであっても、主は「わたしは限りない愛をもってあなたを愛している」と呼びかけておられます。そして全ての人が愛を受けることができるように、キリストが十字架に上り、私たちの罪の身代りになって下さいました。主の限りない愛で心を満たしていただき、新しい一週間の旅路を、祈って、共に出発して参りましょう。

内　容

1、主は、苦しみの中で我らに出会い、我らを守り支えて下さる。31：2

2、主は、限りなき愛をもって我らを愛して下さるお方である。31：3－6

資料問題

この箇所は、捕囚の民に彼らの過去、すなわち神の恵みと常に現存する神の愛を明白に証言していた過去を思い起こさせている。主は、その民をエジプトの奴隷から連れ出された神、追跡するエジプト軍から民を守られた神、荒野で民の面倒を見られた神、シナイ山で「遠くから（かなり昔に）」彼らに自己啓示された神である。この神は変わることのない方、我々が完全に頼ることのできる方、そのヘセド、忠実または不変の愛を維持される神であられる。２節「荒野」、患難の象徴で、ここでは捕囚生活のこと。「恵みを得た」、荒野にこそ神の恵みはくだる。「それゆえ、見よ、・・・荒野に導いて行き、ねんごろに彼女に語ろう」（ホセア2：14参照）。「イスラエルが安息を求めた時」、フランシスコ会訳では「さあ、わたしは行ってイスラエルを休ませる」。３節「遠くから」、カナンの地より、捕囚の民に現れた。また、古えからとも読める。「わたしは限りなき愛をもって愛している」、永遠の愛をもって、古えより今日まで、あなたを愛している。2：1－7参照。４節「鼓」、出エジプト15：20、士師11：34参照。

1、主は、苦しみの中で我らに出会い、我らを守り支えて下さる。31：2

主はこう言われる、「剣（つるぎ）を逃れて生き残った民は荒野で恵みを得た」。（２節）

今から約２５００年程前、イスラエルはバビロンに敗れて国を失います。多くの人々はバビロンに連れて行かれ、捕囚の民としてバビロン王に仕える日々をおくっていました。捕囚の民に対して、７０年後に、故国へ帰れるというメッセージが伝えられます。この箇所にはそうした時代背景がありますが、今朝はこの箇所から主の恵みのメッセージを聴いて行きたいと願っています。

開拓伝道を始めの頃たくさんのパンフレットを配りました。題名を大きく書いて、受け取った人の注意を惹くようにしました。例えば「渇く者は来たれ」、「重荷を下ろせ」、「人生の浮き沈みを越えて」などというタイトルをつけました。浮き沈みということですが、私たちの人生を考えてみると様々な浮き沈みがあります。私の先週一週間を振り返ってみると、抽象的な言い方ですが喜びと苦しみ、前進と後退、上昇と転落などの現場に立会い、その度ごとに主に助けを求めて、祈りました。

２節に「荒野で恵みを得た」とあります。荒野とは何もない荒れ果てた所、誰も助けてくれない所です。キリストを信じていても、私たちは時として苦しみ、後退、転落などのトラブラルに巻き込まれ、人生のどん底に沈んで、荒野に放り出されてしまうような事があります。しかし、自分の失敗や罪に気づいて悔改め、神様に縋って必死に祈るならば、そこから浮かび上がって再出発する恵みと力とが与えられます。私たちの主は、「悩みの日にわたしを呼べ、わたしはあなたを助け、あなたはわたしを崇めるであろう」（詩篇50：15）と言われる恵みの主です。

パウロに次いで、キリストを大きく豊かに表したアウグスティヌス（354－430）はたぐい稀なる才能の持ち主でしたが、若い頃から異教の神を信じ、情欲に迷って同棲し、子どもがいるという生活を続けていました。偶像礼拝と不倫という罪の荒野をさ迷っていた彼に。聖霊が聖書を読むように導き、「闇の業（わざ）を捨て、光の武具を身に着けよう。宴楽と泥酔、淫乱と好色、争いとねたみを捨てて、昼歩くようにつつましく歩こう。主イエス・キリストを着なさい。肉の欲を満たすことに心を向けるな」（ロマ13：11－14）という御言葉によって、彼は罪を悔改め、キリストを信じて生まれ変わります。やがて彼は司祭（後に司教）になり、「告白」などの著作によって、多くの人々にキリストを指し示しています。

私たちの人生の荒野は何でしょうか・・・。逆境、病気、経済的困難、仕事がない、人間関係のもつれ、先行き不安な思いでしょうか。荒野にいる自分には光が届かない、あるいは自分の行くべき道が分からないという闇につつまれたような状況でしょうか。不安と怖れと失望とが入り混じる不安定な時にこそ、聖書朗読を通して私たちか語りかけて下さった主イエス・キリストの言葉を思い出し、キリストに縋って、祈りましょう。キリストは言われます、「あなた方は心を騒がせないがよい。神を信じ、またわたしを信じなさい」、「わたしは平安をあなた方に残して行く・・・あなた方は心を騒がせるな、また怖じけるな」、「あなた方はこの世では悩みがある。しかし勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝っている」（ヨハネ14：1,27、16：33）。そう励まして下さるキリストは、今どこにおられますか・・。パウロが「この奥義はあなた方のうちにいますキリストであり、栄光の望みである」（コロサイ1：27）と述べているように、キリストは我らの心の内におられます。キリストは十字架に命を捧げて罪の赦しの道を開かれ、死を打ち破って甦り、今も活きている主です。生きているキリストは信じる者の心に住んでおられ、我らを中から内から支えて下さる主です。皆さんは心の中に住んでおられるキリスに信頼し、キリストが共にいて下さるから大丈夫だという信仰に立っているでしょうか・・・。

あるクリスチャンが全財産を失い、生きる気力さえも失いそうになった。牧師が尋ねた、「あなたは主を愛していますか」「はい」。「ではあなたは自分自身を愛していますか」「いいえ」。牧師は言った「それでは、あなたは本当に主を愛していないのです。なぜなら主はあなたの心の中におられるからです」。その人は思った・・・自分はキリストの十字架のゆえに、神の子にされている。心の内に主がおられる。失敗し、無一文になったが、キリストは私を離れず、私を捨てないで、ずっと守っていて下さる。人は金の縁が切れ目ということで、自分が無一文になったら去って行った。だがキリストは違う。このままの私を愛して下さっている。だから本当は、自分は素晴らしい存在なのだ。例え、逆境、病気、経済的困難、仕事がない、人間関係のもつれなどで、荒野の中にいるように感じても、弱さで涙を流しても、先行き不安になっても、主は「あなた方は心を騒がせるな、怖じけるな」と呼びかけ、失望しないように支えて下さっている。私は愛されているのだ・・・彼は苦しみの中で、荒野の中で、主に出会い、再び生きる力を与えられて、希望をもって前進しています。

今朝、自分の全てをキリストにぶつけて祈りましょう。苦しみの荒野の中で、キリストは私たちに恵みを下さいます。聖霊の導きの下に、あなた自身の事を主に祈って行きましょう。

1、主は限りなき愛をもって、我らを愛して下さるお方である。31：3－6

主は遠くから彼に現れた。「わたしは限りなき愛をもってあなたを愛している（永遠の愛をもって、わたしはあなたを愛した）。それゆえ、わたしは絶えずあなたに真実（誠実）を尽くしてきた」。（３節）

愛という言葉は、百年ちょっと前までは、愛欲というように低い賎しい意味で使われていました。仏教では愛は克服しなければならない悪い欲望とされていました。そこで、日本の伝道初期には、愛の代わりに、仁とか仁愛という言葉を使っていました。しかし、聖書に愛という言葉が取り入れられて、キリストが全ての人を隔てなく愛するお方であるということで、愛は現在のように良い意味をもつ言葉として使われるようになったのです。

３節を中心にして行きます。「主は遠くから彼に現れた」とありますが、私たちは不信仰のために、なかなか主を信じようとしなかった愚かな者でした。そんな私たちを見捨てずに、主はいつも私たちを見守ってくれていたのです。私たちのことを考えてみれば、私たちは自分の意志によって生まれてきた者ではありません。気がついたら自分がこの世に生まれ、生きていることを発見したのです。ところでよく考えてみますと、不思議なことに、この世に生まれてきた自分が生きるために、いろいろなものが備えられていたことに気づきます。例えば両親がいる、家族がいる。広く考えれば空気がある、水がある、太陽がある。緑がある。それでは、この私が生きて行くために愛をもって様々なものを備えて下さったのは誰だろうか・・・。それは天地万物を創造されたまことの神様です。神様が愛をもって私たちに命を与え、この世に生まれさせて下さったのです。ですから、私たちは神様の愛を受けるために生まれてきたと言えます。「君は愛されるため生まれた。君の生涯は愛で満ちている」という讃美のとおりです。

主なる神様は、「わたしは限りなき愛をもってあなたを愛している」と言われます。主のほうから、先に私たちを愛して下さったのです。ヨハネは言っています。「私たちが神を愛したのではなく、神が私たちを愛して下さって、私たちの罪のためにあがないの供え物（宥めの供え物）として御子（キリスト）をお遣わしになった。ここに愛がある」（Ⅰヨハネ4：10）。神様に背き、罪の中にいた私たちのために、キリストがこの世界にやって来て、あがないの供え物（宥めの供え物）になったとはどういう事でしょうか。ヨハネは次のように説明しています、「主（キリスト）は私たちのために命を捨てて下さった。それによって、私たちは愛ということを知った」（Ⅰヨハネ3：16）。これはキリストの十字架を指しています。キリストが潔い自分の身を十字架につけて、私たちの受けるべき罪の罰を受けて「父よ、人間の罪を赦して下さい」（ルカ23：34）と祈りながら、命を捧げて救いの道を開いて下さったことを現しています。

「わたしは絶えずあなたに真実を尽くしてきた（誠実を尽くし続けてきた）」とあります。結婚の例で言えば、結婚する時に、人は愛を誓い合います。問題は愛をどのように継続させるかということです。ここでは「真実を尽くす（誠実を尽くす）」と言われています。私事ですが、３７年前に、私が結婚する前に、この教会を開拓して下さったクラー宣教師が結婚について、自分の体験を織り交ぜながらいろいろと教えてくれました。その中に「やさしくする」というのがあり、「睦子を叱るな、責めるな。生きている限り、あなたの宝物を大切に、大事にしなさい」と言われました。神様はキリストの十字架によって無条件で私たちを救い、神の子にして下さいました。神様は私たちが信仰から外れないように、常に真実をもって、私たちを宝物のように大事にして導いて下さっています。私たちがすることは神様に信頼し、縋り続けることです。

ダン・ゴールドバーグという男性は、銀行の幹部職員として成功していましたが、心の内は虚しく渇いていました。ビジネスに成功しても、「自分は何者で、なんのために生き、どこに向っているの」という疑問不安が消えない。不安から麻薬常習者になり、結婚もだめになってしまった。しかし、職場でクリスチャンのマーシャさんと出会って、彼女が自由で活き活きとしている秘訣を知りたいと思って、彼女の教会行くようになった。教会で無常件の愛に囲まれ、赦し合い、親しく交わりをしている人々の間にいると、これこそ自分の求めていたものだと感じた。しかし、彼には、それが何処から来るのかが分からなかった。彼は映画「パッション」をみて、無条件の愛について知ることになった。「イエス・キリストは打ちのめされながら、自分を十字架につけた者達に対して、『父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは何をしているのか分からずにいるのです』と叫ばれた。自分は些細なことで人に対して何日も怒り続けるのに、主イエスはそんな私のために命を捨てられた。自分にはとうてい他人を審く権利などないと感じ、私は赤子のように泣いた」と彼は言う。映画「パッション」を見て数日後、マーシャと本屋に行く。前を見ると、聖書を売っている棚があった。彼は聖書を読み始める。そしてイエス・キリストを救主として受け入れた。ある晩、静まっていると、自分の全生涯が目の前に写し出され、自分のやってきたこと全てがあらわになった。そして、これら全てが赦されたという確信が与えられた。とても赦されないと思えた数々の出来事から解放され、自分が新しくされたことを感じた。マーシャはダンについてこう語る。「以前は、彼は物質的なことのために生きていました。どれだけ稼げるか、そのためにどんな職業に就くかということです。今は自分のためでも、他人のためでもなく、神様のために働いていることを知っています。例えば、職場で嫌なことがあると、かつては怒っていましたが、今は失敗や嫌なことに執着することはありません。彼は気持を楽にして、『きょうもいい日だったよ。きょうも命が与えられていて、より高い目的のために生きているのだから』と言います」。その高い目的とは神の愛を現すことです。ダンは言う。「私はキリストを通して人を愛せるようになったのです。自分は不完全な者で、これからも失敗を繰り返すことでしょう。しかし、キリストが自分を受け入れて下さったことで、私はより多くの人を受け入れられるようになったのです。マーシャとの結婚も、最初の結婚のように自分の愛で愛そうとするのではなく、イエス様の愛で愛するのです。自分に愛する自由、善い心を持つ自由が与えられています。これで夜も良く眠れます」。

ダンは、生きることへの疑問と不安から、麻薬に手を出し、結婚の破局という荒野に投げ出された時に、クリスチャン女性と知り合い、キリストを信じて、新しい人生の道へと踏み出しました。主は「限りない愛をもってダンを愛して下さった」のですが、それは十字架による永遠の愛でした。彼がキリストを信じて以来、主は真実をもって彼を導き、その徴として、例えば彼の怒りやすい心が愛の心に変えられています。主は彼を全く新しくして下さったのです。

まとめ

1、２節、主は苦しみのただ中で、私たちに出会ってくれます。主に縋って行こう、主が私たちを守り支えて下さいます。

2、３節、主は限りない愛をもって我らを愛して下さる。主は我らを導いて下さる真実な救主です。

主に愛されていることを感謝し、主に従って行こう。

＊今朝、あなたの問題のために祈りましょう。恵みの座で祈りましょう。

＊「君は愛されるため生まれた」を聴いて、祈ります。

祈　り

天地の主である神様、「わたしは限りない愛をもってあなたを愛している」という主の愛を感謝します。愛を現すために十字架にかかって下さったイエス様の恵みをほめたたえます。今、困難なことや病気の方々を覚えて下さい。「荒野で恵みを得た」と教えていただきました。困難の中にも主の恵みが溢れることを信じ、全てを恵みと益に変えて下さる神様に信頼して行きます。今週も聖霊によって祈りの日々を前進させて下さい。イエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献エレミヤ書注解―デヴイドソン、三田和正、フランシスコ会、口語旧約略解、文語旧約略解、LAB。　　「愛について・今道友信・講談社」、「日本キリスト教総覧・新人物往来社」、「御翼・佐藤順」、「キリスト教の事典・遠藤周作編・三省堂」