偉大な助け手である大祭司キリスト　ヘブル4：14

偉大な助け手である大祭司キリスト　ヘブル4：14－16　　　　　　　主の2005.10.2礼拝

私事ですが、男５人、女２人の７人兄弟で、私は上から３番目です。私の子ども時代は、日本が戦争で敗れた直後で、食料や物資の乏しい中で、父親は洋服仕立ての仕事をして、大家族を養うために働いていました。私はよくイタズラをしましたが、父は叱ろうと思っても咄嗟に名前が出てこなくて、７人全部の名前を呼んでから、私の名前を呼んで「こら、何をしているのか」と叱ろうとしても、もうその時は、私は既に逃げてしまっていました。大家族を養うために父親は朝から晩まで働いているので、何か頼んでも、それがよく伝わらないもどかしさがありましたが、母親が仕事の頃合を見計らって、私の願いを父親に伝えてくれて、うまく事が運んで行ったのを思い出します。もし、母親がいなければ、自分の願いが父親に充分に伝わらなかったと思いますが、母親が執り成し手となってくれたことを感謝しています。

本日はヘブル４:１４－１6です。１６節に「時機を得た助け（おりにかなった助け）」という言葉があります。これは、イエス・キリストが私たちの願いを、タイミング良く父なる神様に届けて下さって、素晴らしい答があります、という約束の言葉です。私の思いを、母親が父親に伝えてくれて、タイミング良く事が運んだように、救主イエス・キリストが私たちの執り成し手として、全ての願い、求めを父なる神様に取り次いで下さることによって、タイミング良く万事が益となって行くという恵みの言葉です。多くの皆さんが、様々なことを神様に祈っていると思います。祈りは聴かれると信じていますが、時には祈りが届いているのだろうかという焦りや、もどかしさを感じる事があります。そんな時こそ、「時機を得た助け」があるという約束を信じて、祈り続けましょう。聖書朗読に「耳を傾け、わたしに来て聞け。そうすれば、あなた方は生きることができる」（イザヤ55：3）と約束されていました。「時機を得た助け」を下さる主によって、今週も素晴らしい恵みの日々になることを確信し、祈って、共に新しい一週間の旅路を出発して参りましょう。

内　容

1、キリストは、我らの心に住みたもう救主である。4：14

2、キリストは、我らを最善の時に助けて下さる救主である。4：15－16

資料問題

ヘブル書の記者は不明（パウロ、アポロ説あり）。本書はユダヤ人クリスチャンに宛てて記された書簡。旧約のモ―セ、儀式、幕屋などを自由に引用し、それらが指し示していたキリストが来臨され、救いのわざを完了したことを論証している。１4節「もろもろの天を通って行かれた」、場所的、空間的にという意味ではない。霊的な意味もつもので、旧約の大祭司が幕屋の垂れ幕を通って至聖所に入ったように、復活されたキリストが、受難を通して、栄光の座についたことを示す（9：11,24。10：20）。１５節「罪は犯さなかった」、キリストは罪に陥ったことも、また陥る　こともできない（7：28,9,14。ヨハネ8：46。ローマ８:３。Ⅱコリ５:２１。Ⅰヨハ3：5）。

１６節「恵みの座」、神の全能の象徴であり、キリストは父と共にこの座につく（マタイ16：23。25：31。マルコ16：19）。そこでキリストは我々のために執り成しの祈りをするので、「恵みの座」と呼ばれる（ヘブル1：23）。また恵みの座は神殿の至聖所に置かれていた贖罪所を指す（レビ16：11－14。出25：17－22）。キリストが贖罪を成し遂げた所はゴルゴタなので、十字架こそ恵みの座の原点といえる。

1、キリストは我らの心に住みたもう救主である。4：14

さて、私たちには、もろもろの天を通って行かれた大祭司なる神の子イエスがいますのであるから、私たちの告白する信仰を固く守ろうではないか。（4：14）

4：１４、「キリストは大祭司である」と言われています。昔ユダヤ人は神殿で神様を礼拝していました。神殿の一番奥に分厚い垂れ幕（カーテン）で仕切られた至聖所があり、そこは普段は誰も入って行けない最も神聖な場所でした。キリスト以前は、人間の大祭司が一年に一度だけ至聖所に入ることを許され、人々の罪と大祭司自身の罪のために神様に祈りました。キリストは人間を救うために来られた救主として、大祭司の役割を進んで担われました。キリストはきよい、神の独り子ですから、ご自分の罪のために祈る必要はありません。キリストは私たち罪人のために、「父よ、人間の罪を赦して下さい」（ルカ24：34）と祈られ、十字架の上にきよい、罪のない身を捧げて下さいました。キリストが十字架の上に命を捧げたその時に、至聖所の分厚い垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けたことが記録されています（マタイ27：51）。至聖所の垂れ幕が裂けたということは、いつでも、誰でキリストを信じれば、神の子になれる救いの道が開かれことを意味しています。昔は大祭司が人々の罪のために一年に一度だけ祈りましたが、今は直接にキリストを信じれば、いつでも、誰でも罪を赦され、神の子になれる恵みの時代が開かれたのです。そのことが、ヘブル10：19-20に説明されています、「信者の皆さん。こういうわけで、私たちはイエスの持っている力により、確信をもって本当の聖所に入ることができる。イエスはご自分の体を犠牲にして（十字架）、聖所と至聖所との間を隔てていた垂れ幕を取り除き、私たちが神のみもとに自由に行けるようにして下さった」（現代訳）。

4：14後半に、この素晴らしいキリストを告白するということが勧められています。これはキリストがおられるということを新しく信じるということよも、キリストを自分のものとしてもつということを意味しています。もう私たちはキリストを信じている。信じているキリストは遠くではなく、私の心の中におられる。キリストが私と共にいて下さるという信仰を固く保って行こうということです

皆さん、キリストは、今、どこにおられますかが・・・。２００５年度教会の御言葉を思い出して下さい、それは使徒パウロを通して語られた言葉です、「この奥義は、あなたがたのうちにいますキリストであり、栄光の望みである」（コロサイ1：27）。またパウロは次のように告白しています、「わたしはキリスと共に十字架につけられた。生きているのは、もはや、わたしではない。キリストが、わたしのうちに生きておられるのである。しかし、わたしがいま肉にあって生きているのは、わたしを愛し、わたしのためにご自身をささげられた神の御子を信じる信仰によって生きているのである」（ガラテヤ2：20）。キリストは遠く離れた救主ではなく、私たちの心の中に住んで、共にいて下さる救主です。キリストを心に迎える時に、私たちの人生は祝福に変わります。

ビルというアメリカ・コロラド州にいる人の証があります。彼は多くの女性を雇って売春宿を経営する醜悪な人物でした。しかし現在は警察のチャプレン（警察付き牧師）をしています。彼は２３歳でいかさま賭博をするようになり、それからマフィヤと関わり、会社を経営し、運転手付きのリムジンに乗る派手な生活をしていた。ところが３番目の妻が彼を捨てて駆け落ちしていなくなってしまう。彼は４度目の妻を迎え、売春宿を建てて、金儲けをしようと考えますが、逮捕状が出て逮捕され、会社の社長は解任されてしまった。執行猶予になるが、盗品売買に手を出し、逮捕され、獄中で自殺を考える。彼は妻の勧めで、家から１５０キロ離れた教会を訪れ、結婚式をしてくれた牧師に会う。彼は激しく悔改めを迫るメッセージを聞き、牧師に「膝をついて祈りなさい」と言われ、祈った彼は泣き崩れた。３０分程して立ち上がると、重荷が取れて肩が軽くなり、その翌日には「自分は主イエスに出会った」と人々に証言をはじめた。キリストによる罪の赦しを体験した後に、裁判で無罪を宣告された。彼は３ヶ月間泣き通しで、聖書をむさぼるように読んだ。そして妻から始まって、２０年間で２万５千人に個人伝道でキリストを伝えた（一日３－４人）。今でも刑務所を訪れ、キリストの愛を伝え続けています。彼は、「私は今でも重罪を犯した前科者であります」と言いつつ、ひたすら信仰に生きている。ビルはキリストを信じた。信じると同時に、キリストが自分の心の中にいて下さる恵みに感謝して、過去に訣別し、キリスト中心に生きています。キリストの十字架によって罪の赦しを受け、キリストを心の真ん中に宿す者として、私たちも「聖霊に導かれて信仰の道をひたすら歩かせて下さい」という祈りを捧げて行きましょう。

2、キリストは、我らを最善の時に助けて下さる救主である。4：15－16

わたしたちは、憐れみを受け、また恵みに与って時機を得た（おりにかなった）助けを受けるために、はばかることな（大胆に）恵みの御座に近づこうではないか。（4：16）

4；15に、「キリストは、私たちの弱さを思いやることのできないような（同情できない）お方ではない」とあります。今朝の聖歌で、「罪があれば愛もて、赦し、咎めだてせず、病あれば手をつけ癒しました」というキリストの恵みを讃美しました（聖歌総合版198）。キリストは限りなく同情深く、小さい者の友であり、味方です。現代の世相の中で、勝ち組、負け組というふうに分けたり、成功者、落ちこぼれ組に分けたりすることがあります。そして、大多数の者がよければ、それ以外の者は切り捨てるという傾向があります。国の問題としては北朝鮮の拉致家族の声が潰されそうになっています。また勝ち、負けあるいは多数、少数と単純化することによって、勝ち、多数の者が負け、少数の者をいじめるという問題があります。

こうした現代の中で、「見捨てられ不安」という状態の中に追い込まれている人々がいます。人との比較、競争にストレスを感じ、疲れてしまい、「自分はだめだ」という孤独感や疎外感をもったまま、やがて自分は家族からも、社会からも「見捨てられてしまう」という不安感をもつようになります。その不安感が心に影響を及ぼし、「自分はだめな人間だ」と自分に対してマイナスイメージを持ち、「家族も世間も冷たい。信用できない」という人間不信に捕らわれてしまいます。ふつうの場合は「見捨てられる」という不安はあっても、何とか不安を乗り越えることができます。例えば、私は子どもの頃にイタズラをして、大抵はうまく逃げていたのですが、時々捕まり父親に叱られる。子どもですからワンワン泣くわけですが、なかなか赦してもらえない。すると頃を見計らって母親が出てきて、執り成しをしてくれて、無罪放免となる。叱られて、ずっと泣き続けて、そのまま誰も助けてくれないということであれば、きっと「見捨てられ不安」になった事でしょう。しかし、いつか母親が来て、或いは誰かが来て、助けてくれると思うから、不安であっても、しかし助けてもらえるという安心感が心にあったのです。でも、もし叱られっぱなしで終わったとしたら、誰も自分を助けてくれないという不安が心の傷になって、「見捨てられ不安」になっていたかも知れません。父親が子どもを叱れば母親が赦しを乞うというような家庭のあり方が崩れ、誰も彼もが忙しく飛び回っていて、他人を助け、顧みるゆとりのない歪みが「見捨てられ不安」という事態を招いているのです。

そうした私たちに対して、キリストは私たちの弱さを知っておられる愛の主です。キリストは言われました、「わたしは、あなた方を捨てて孤児とはしない」（‹ヨハネ14：18）。聖歌総合版657に「救い主イエスはわが友なり」という讃美があります。日本で最初に聖歌を編集出版された中田羽後師が作詞したものです。その２節に、『親に捨てられることありとも、血を分けし者の忘るるとも、我に慕わしきイエス君あり、主は常に我を顧みたもう。主は捨てたまわじ、主に行く身を、主は捨てたまわじ、主を慕う身を、主は誓いませり御弟子達に、「汝（なれ）を捨てさりて、孤児とせじ」と』と歌われています。中田先生は牧師の息子でしたが、親の言うことを聞かなくて、親と衝突を繰り返し、３回勘当されたと述べています。そうした体験を下敷きにして、この讃美を作詞し、親から勘当されたが、キリストはいつも共にいて下さったということを証しています。

キリストは私たちを見捨てることをしない愛の主です。キリストが言われたお話を思いだします、ある人に１００匹の羊がいた。帰ってきた羊を数えてみたら、９９匹はいた。だが１匹がいない。これが現代の考え方であれば、多数決の原理で、９９匹いるから良いではないか。いなくなった１匹は仕方がない、自己責任で帰ってきてもらおうということになるでしょう。ところが羊飼いは迷い出て帰ってこない１匹を捜しに出かけて行った。そして見つけ出して心から喜んでいます。その結論として、キリストは、「これらの最も小さい者のひとりが滅びることは、天にいます父の御心ではない」と言われました（マタイ18：11－14）。キリストはご自分の言われたことを実際に行ったお方です。例えば、罪に溺れているサマリヤの女を救うために、わざわざサマリヤの町へ出かかけて、その女を救いに導かれました（ヨハネ４章）。エリコの町に住む友のいない取税人ザアカイの家に泊まり、救いを与えています（ルカ19：1－10）。レギオンという悪霊に憑かれ、人々から見捨てられて墓場に鎖でつながれ、ひとり淋しく暮す青年を救うために、一晩かけて湖を渡り、彼から悪霊を追い出し、救いを与え、社会復帰させていま（マルコ4：35－5：20）。

4：16に、「時機を得た助け（おりにかなった助け）」とあります。キリストは私たちを見捨てず、私たちの心の願い、求めに応じて助けを下さる救主です。自分が救われた時を思い出して下さい。少し年配の方々は、もし、あの時機を外したら、今の自分はなかったであろうということを思うでしょう。若い皆さんは、ここにいるというだけで祝福です。もう４０年近く伝道牧会していて、ここにいるおひとり一人が一番良い時期に主の救いに与り、教会に属し、それぞれにふさわしい信仰生活をされていることを目の当たりに見させてもらって、主の御名を讃えます。時機を得た助けという事で、古い話をします。結婚して開拓当初、家賃３万円の家でした。教会への援助が、一年目が月４万円、２年目が３万円、３年目が２万円、４年目からはゼロと言われました。最初は４万から家賃３万で、残り１万円で伝道し、建物の維持管理費を払い、二人で食べて行くということです。２年目になると、３万円のうち家賃が３万円で残りはゼロとなる。そこで一生懸命伝道するということと並行して、家賃が安くて、集会ができ、そして住む事ができる家を見つけるために、約１年間不動産屋を回り、家探しをしました。そして約１年目にすぐ傍に、小さな貸家が見つかり、子どもが日曜学校でお世話になっているので、家賃２万円であるが、1万円でよいという事で、引越しをしました。「時機にかなった助け」とありますように、すぐ傍であったのでリヤカーで荷物を運び、２万円が１万円となるという恵みを与えらて、開拓伝道を継続することが出来たことを感謝もって思い起す事ができます。

皆さんもいろいろな願い、求めをもっていらっしゃると思います。「キリストはすべてのことについて、わたしたちと同じような試練に会われた」とある通り、キリストは人として人生の厳しさを体験されたお方です。ですから、私たちの気持を受け止め、理解し、良き答を下さいます。今朝、「時機を得た助け」を下さる偉大な大祭司であるキリストに縋って行きましょう。私たちを見捨てず、支え、最も良い答を下さる主に祈って行きましょう。

まとめ

1、4：15、キリストは神と人とを隔てる罪の力を滅ぼし、救いの道を開かれた救主です。キリストを心の真ん中に迎えると、人生は恵みに変わります。キリストを心の王座に迎えていますか。

2、4：17、キリストは私たちの弱さを知っておられ、私たちを見捨てることをしない愛の救主です。キリストを見上げて祈りましょう。時機を得た助けが必ず与えられます。

＊聖歌総合版657「救い主イエスは（主は捨てたまわじ）」を歌い、祈りましょう。

祈　り

天地の主である神様、救主イエス・キリストの十字架によって罪を赦され、神の子にされていることを感謝します。主は遠く離れた所にいるのではなく、私たちの心の中に住み、「わたしはあなたを捨てて孤児とはしない」と言われる愛の主であることを感謝します。私たちを見捨てず、いつも最善最良のタイミングをもって、私たちに祈りの答を下さることを感謝します

神様、それぞれが祈り求めている事柄に対して、時機を得た助けを与えて下さるようにお願いをします。問題を抱えている方々に導きを与えて下さい。病気の方々を速やかに癒して下さい。聖霊に導かれて、新しい１０月の月も、「キリストを喜びキリストを伝道する教会」として、祈りの中に前進させて下さい。私たちの偉大な大祭司であるイエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献へブル注解―名尾、黒崎、フランシスコ会、米田、口語略解、文語略解、LAB。　「御翼・佐藤順」