我らの国籍は天に在り　ピリピ3：17－4：2　　　　　　　　　　　　　　　　　　　主の2005

我らの国籍は天に在り　ピリピ3：17－4：2　　　　　　　　　　　　　　　　　　　主の2005.10.30礼拝

野心に燃えた青年と、人生を知り尽くした老人との間に、こんな会話があった。

青年は、「僕は商業を勉強するんだ」と言った。

老人は、「それから？」と尋ねた。「事業を立ち上げるんだ」。「それから？」、「ひと財産つくるさ」。

「それから？」、「それから僕も老人になって引退し、自分のお金で生活するさ」。

「それから？」、「うーん、それから、いつかは僕も死ぬだろうな」。

「それから？」と、最後の鋭い質問が浴びせかけられた。もう一つの世があるということを考えてもみない人間は、いつの日か身の毛もよだつような衝撃を受ける定めになっています。

本日はピリピ3：17－４：１です。神を信じない者について、「彼らの思いは地上のことである」（3：１９）と言われています。神を信じる者は、この世で人生は終りではなく、「わたしたちの国籍は天にある」という、天国に行く確信を持っています（3：20）。野心に燃えた青年は、この世が全てと思っていました。しかし、聖書は、人はこの世で終りではなく、天国か地獄のどちらかに行くという定めを厳粛に伝えています（マタイ7：13－14）。本日午後、「やすらぎの里」にある教会墓地で「召天者記念会（墓前礼拝）」が行われます。墓石に「我らの国籍は天に在り」（ピリピ3：20）という御言葉が刻まれ、その下に骨が納骨されています。私たちクリスチャンも、一度は死によって肉体は朽ち果て、焼かれて一片の骨と化します。しかし、霊は神の御許に帰って行きます。やがてキリスト再臨の日に、体が甦り、霊と体とが結びつき、新しい天、新しい地と言われる神の御国に入り、主を仰ぎ見ながら永遠の恵みの中に生きるのです。私たちが墓に行くのは、地上を去った人々を拝むためではなく、私たちをキリストの十字架によって罪から救い、永遠の命を与えて下さった愛の神に感謝し、神に礼拝を捧げるためです。と同時に、先に天に帰って行かれた方々を思い起こし、記念し、ひとり一人が「私たちも天の御国を目指して行こう」という決断を新たにする時です。主のメッセージを聴き、祈って、新しい一週間の旅路を出発して参りましょう。

内　容

1、キリストなき人生は人間中心である。3：17－19

2、キリストを信じる人生は神中心である。3：20－21

3、キリストを信じる人生は信仰中心である。4：1－2

資料問題

3：１７「わたしに倣え」、生来のパウロではなく、十字架の贖いによって新たにされたパウロに倣うこと。3：１８「十字架に敵対する者」、パウロが「涙を流して」と言っているところから、いったんはクリスチャンになったが、異端的な教えに惹かれて、バックスライドした者たちを指している。マルコ8：34、ロマ6：12－14、ガラテヤ2：20、5：24のような精神を踏みにじって恥としない放縦な者たちの事。3：１９「彼らの神はその腹」、自分の欲望の奴隷になって生きることで、ロマ16：18、コロ3：5-6、Ⅱテモ3：4参照。「彼らの栄光はその恥」、人間の血統、能力などを誇る。或いは割礼と解する。「その思いは地上のこと」、天国のことが欠落している。現世的なユダヤ教祭儀の事とも解される（ガラテヤ4：3,9参照）。3：２０「国籍は天にあり」、4：3、ルカ10：20、コロ3：1－4参照。4：1「愛し慕っている」「愛する者たち」と二度も呼びかけるほど、パウロはピリピの人々を思っている。4：2「オウデヤ」「スントケ」、婦人の名前、二人は仲違いしているが、パウロはキリストにあって心を一つにせよと勧めている。

1、キリストなき人生は人間中心である。3：17-19

わたしがそう言うのは、キリストの十字架に敵対して歩いている者が多いからである。わたしは、彼らのことをしばしばあなた方に話したが、今また涙を流して語る。（3：18）

この手紙を記したのは使徒パウロです。彼は3：18で「キリストの十字架に敵対してはならない」と涙を流して訴えています。それは、キリストを信じたにも関わらず、キリストから離れ、教会から離れ、自分の欲望のままに生活している者達のことを思っての涙です。キリストを信じていなかった過去に逆戻りしてしまったことを、英語でバックスライドと言います。キリストのいない、罪に支配されていた過去（バック）に滑り落ちて（スライド）しまったという事です。キリストから離れ、教会から離れてしまった彼らは、罪に負けて欲望のままに生活しているが、その最後は滅びである（3：19）。パウロは彼らの末路を考えると、いても立ってもいられない思いになって、「涙を流して」、彼らが信仰に戻るようにという願いを述べています。私たちはクリスチャンとして、今こうして教会生活を継続していることを感謝しましょう。そして一生を賭けてキリストを信じ続け、教会につながり続けることを、祈って、再決断することが大切です。

前後しますが、3：１７でパウロは、「わたしに倣う者となってほしい」と呼びかけています。キリストを信じる前、パウロはクリスチャンを迫害し、教会を荒らし回り、老若男女の別なく捕縛するという荒っぽいことをしていました。しかし、キリストを信じてからは、世界各地へキリストを宣べ伝えるために伝道の旅を続けます。それは非常に困難な働きで、パウロは反対者によって各地で迫害を受けます。例えばロマ人にムチで叩かれたことが５度、大勢の人々から石を投げつけられて殺されそうになったことが１度、船旅で難破した事が３度、海の中を一昼夜漂流したことがあり、人に裏切られ、泥棒に会い、野宿し、食べ物がなく、着るものがなく寒さに凍えたこともあったという体験をしています（Ⅱコリ11：23－32）。その上、パウロは病気持ちでした（Ⅱコリ12：7－9）。しかし、彼は苦難に負けることなく、キリストを信じ続け、生涯の終りに「私は戦いを立派に戦い抜き、なすべき事を果し、信仰を守り通した。私は地上の生涯を終えて（死を通って）主の御許に行く。主は義の冠を用意して、私を待っておられる」という喜びの確信を述べています（Ⅱテモ4：6－8）。パウロの「わたしに倣いなさい」という言葉の意味は、「皆さん、私のように一筋にキリストを信じ続け、キリスト中心に生きて行こう。恵み深い聖霊に導かれて、キリストにつながり、教会につながり、天国への道を真っ直ぐに進んで行こう」という勧めです。もし、キリストから離れ、教会から離れれば、人間中心になり、罪の力に負け、どんどん霊の恵みが失われて行きます。

キリストから離れ、教会から離れれば限りなく罪の生活をするようになります。3：19には、キリストなき者は罪の生活をするようになると警告されています。腹は欲望の象徴です。腹を神とするということは自分の欲望を満たすことが一番であって、キリストから離れ、キリストを信じない者の一番の関心事は自分の物資的生活のことで、自分さえ良ければという態度です。以前に、テレビで「大食い選手権」という番組があり、いっぺんに沢山の量を食べた人が優勝するという内容でした。どんなに沢山食べてもよいが、それは個人的なことであるので、わざわざ放送する必要はない。世界では三分の一以上の人が飢餓状態にあるし、日本の国にも大勢のホームレスがいるのに、自分たちだけタラフク食べているのは、食べられない人に対する思い遣りがなく、傲慢であるという事で、評判は良くなかったと思います。またお金があり、物が豊かにあればいいという考えがあります。しかし、どんなに物を持っていても、死ぬ時は何も持って行けません。以前話しましたが、大阪の銀行の支店長は遺言で、棺桶の両横に穴を開けて、自分の手を見えるようにさせた。それは「死んだら一円たりとも持って行くことは出来ません」ということを、参列者に知らせるためでした。

アメリカはクリスチャンによって始まった国です。最初の頃、クリスチャンが町をつくる時には、先ず中心地に、心の拠り所である教会を建設する、それから住宅などを配置して行くという方法をとっていました。ところが信仰を持たない人々が入り込んで来て、彼らがしたことは、先ず欲望を満たす場所として、町の中心地に酒場をつくるということをしました。ヨハネは言っています、「すべてこの世にあるもの、つまり肉欲、貪欲、虚栄、目の欲、持ち物の誇りは、父から出たものではなく、この世から出たものである。この世とこの世の悪い欲望は滅び去ってしまう。しかし、神の御心を行う者は永遠に祝福される」（Ⅰヨハネ2：16－17現代訳）。キリストなき人生は一見華やかそうで、栄えているように見えます。聖書朗読の詩篇７３篇を思い出して下さい、その中で、「神なき者が大手を振って歩き回り、栄えているようであった。彼らは主に敵対し、主を軽んじていた。しかし主は生きておられる。主は彼らを滑らかな所におき（滑りやすい所におき）、彼らを滅びに陥らせられる（突き落とされる）（１８節）」と歌われていました。さらに「主に遠い者は滅びる、主に背く者は（不誠実な者）は滅びる（２７節）」とも言われていました。

私たちは、恵み深い聖霊によって、キリストを信じ、キリストに従って行く者であることを感謝しましょう。それと同時に、折角キリストを信じたのに、キリストから離れ、教会から離れている人々がキリストの御許に立ち返り、教会につながって行くようにお祈りして下さい。

2、キリストを信じる人生は神中心である。3：20－21

しかし、わたしたちの国籍は天にある。そこから救主、主イエス・キリストの来られるのを、わたしたちは待ち望んでいる。（3：20）

3：19で「キリストの十字架に敵対する者の思いは・・・地上のことである」と言われています。

3：20に入って、急に「しかし（けれども）、私たちの国籍は天にある」という事が言われています。これは、

使徒パウロが聖霊に導かれて、クリスチャンの思いを、地上のことから天上の方向に導くために、場面を転換させているからです。ところで、ここにいる大部分の皆さんはイエス・キリストを自分の救主として、また主として信じておられると思います。私たちはキリストを信じた時に、天にある「いのちの書」に名前を登録されます。キリストを信じた時に、私たちは神の子どもになります。ヨハネは、「キリストを信じ、受け入れた者は、誰でも神の子になることができる。キリストを信じる者は誰でも救っていただける」（ヨハネ1：12）と言っています。キリストを信じて救われるということは、神が与えて下さる恵みであり、先祖や親の身分や地位によるのではなく、神の選びによる恵みです。キリストを信じ受け入れるとは、自分の心の扉を開いて、「イエス様、私の心の中に入って下さい。イエス様が私の罪を赦し、永遠の命を与えて下さることを信じます」と祈れば良いのです。

キリストを信じた時に、私たちは天国の一員になりました。キリストは「あなた方の名が天に記されていることを喜びなさい」（ルカ10：20）と言われました。キリストを信じて、天国の民になり、「私たちの国籍は天にある」という恵みを受けていることを感謝しましょう。

＊途中ですが、「御名を掲げて」というキリストの救いの恵みを讃美しましょう。

「私たちの国籍は天にある」という事ですが、私たちの将来はどうなるのでしょうか。本日は墓前礼拝の日ですので、ここで、私たちの将来について、図を見ておきましょう（ここをクリックして表示）。

第一に、この世があります。その次に中間状態といわれる所があります。そして世の終りにキリストの再臨があり、最終的な行く先が決まります。

第二に、クリスチャンのことを見てみます。

信者と記してあります。今、死ねば、肉体は朽ち果て、霊はパラダイスに行きます（アブラハムのふところとも呼ばれている。ルカ16：23）。十字架の上で悔改めた犯罪人は、キリストから「あなたは、きょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」（ルカ23：43）という約束を与えられています。次に、やがて、世の終りにキリストが再臨されます。その時、私たちの体が甦り、霊と結びつき、新しい天、新しい地と呼ばれる天の御国（天国）に入って行きます。そこに行く者は涙を拭い取られます。そこは、もはや死、悲しみ、叫び、痛みもない恵みの世界です（黙示録21：3－4）。

第三に、ノンクリスチャンのことを見てみます。

不信者と記してあります。今、死ねば、肉体は朽ち果て、霊は黄泉（よみ）に行きます。そこは苦しみの世界です（ルカ16：23－21,28）。世の終りにキリストが再臨される時に、体が甦り、霊と結びつき、大きな白い御座の前に行き、最終的に「いのちの書」に名前があるかどうかが調べられます。この「いのちの書」に名前がない者はサタンと共に火の池に投げ込まれます（黙示録20：10－15）。

ここで三つの大事なことを伝えます。

第一に、人生には二つの道があり、私たちはそのどちらかを選ぶということです。命か死、天国か地獄、祝福か呪いかという二者択一です。神様の思いは、キリストを信じて、全ての人が命、天国、祝福を得るようにということです（申命記30：15－20参照）。

第二に、これは私たち個人個人に言われていることです。例えば、キリストを知らないで亡くなった人はどうなるのかということを考えることがあります。しかし、神様は「今、わたしは、あなたに語りかけている。あなたはどう思うか」と言われます。他の人のことは、神様とその人の問題です。

第三に、これを聴いた者として、「私は主に従います、天国の市民として歩みます」という決断の祈りを捧げるということです。

3、キリストを信じる人生は神中心である。4：1－2

だから、私の愛し慕っている兄弟たちよ。わたしの喜びであり、冠である愛する者たちよ。このように主にあって堅く立ちなさい。わたしはユオデヤ・に勧め、またスントケに勧める。どうか、主にあって一つ思いになってほしい。（4：1－2）

私たちは天国の市民として、どのように生きたら良いのでしょうか。4：1でパウロは２回も「愛する者」と言っています。4：2では、ユウオデヤとスントケという婦人に「仲良くなって、一つ思いになってほしい」ということを勧めています。仲良くなるために、「主にあって」という言葉があります。主にあってという事ですが、先週のキリストの言葉を思い出して下さい。キリストは弟子達に対し、「わたしがあなた方を愛したように、あなた方も互いに愛し合いなさい。互いに愛し合うならば、それによって、あなた方がわたしの弟子であることを、全ての者が認めるであろう」（ヨハネ13：34－35）という新しい戒めを与えました。それは私たち全ての者に対する戒めでもあります。互いに愛し合うことが天国の市民であることの最大の徴です。

キリストを信じる人生は神中心であると言いました。神は愛です。キリストを信じ、心が生まれ変わった者は、神が愛であるように、愛を表す人生を送るようになります。神中心の人生とは愛を表す人生です。具体的に三つのことを心に留めて下さい。

第一に祈ることです。愛を表すための祈りですから、祈り方が大切です。例えば夫婦ケンカをした。癪に障るが祈る、「神様、あの夫（妻）は間違っています。間違いを悟らせ、あの夫（妻）を変えて下さい」という祈りはダメです。愛の祈りは「私がついカッとなって怒りました。すぐ切れる弱い私を赦して下さい。もっと優しく接してあげられるように愛を下さい」と祈ることです。相手を変えるように祈らない、相手を責めるように祈らない、先ず自分が変えられるように祈ることが、真の愛の祈りです。

第二に、へりくだることです。決して相手を見下さないことです。失礼なことを言われようとも、相手が威張っていようが、へりくだったほうが勝ちです。尊大な人、威張る人、指図ばかりして自分は動かない、そういう人はやがて信用を失います。キリストは汚い弟子達の足を洗い、互いにへりくだって、仕え合って行きなさいという模範を残されました（ヨハネ１３章）。

第三に、赦すことです。これは人生最大のテーマです。キリストが十字架の上で「父よ、彼らを赦したまえ」（ルカ23：34）と祈られたことが最大の赦しです。１5５７年（慶長２年）２月５日長崎で２６人のキリシタンがハリツケにされて殉教しました。その一人、三木修道士はハリツケにされながら次のように言ったと伝えられています。「最後の時に、私が真実を語っていることを信じて下さると思います。キリシタンの道（キリストを信じること）以外に救いの道がないことを私はここに断言します。私はキリストに従って、太閤様をはじめ、私の処刑に関係した人々を赦します。私は恨みを抱いていません。ただ切に願うのは太閤様をはじめ日本人全部が一日も早くキリシタンになられることです」。

まとめ

1、3：18、キリストなき人生は人間中心の罪に負けてしまう人生です。キリストを信じる者に変えられていることを感謝しましょう。

2、3：20、キリストを信じる私たちの国籍は天にあります。天国の民になっていることを感謝しましょう。

3、4：1－2、キリストを信じる者は、神が愛であるように愛に生きる者です。人のために祈り、へりくだり、赦すことを少しでも多く実践して行きましょう。

祈　り　　父なる神様、キリストの十字架によって救われ、天国の民であることを感謝します。天国の民にふさわしく、愛をもって祈り、へりくだり、赦す者となれるように導いて下さい。聖霊によって祈りを深め、喜びの日々を送らせて下さい。これからの聖餐式、午後の墓前礼拝、夕べの礼拝を祝福して下さい。天国の国籍を与えるために十字架にかかって下さった主イエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献ピリピ注解―フランシスコ会、黒崎、米田、口語略解、LAB。「バークレー・信仰のことば辞典」「キリスト教逸話例話集・高野勝夫著」