必要なことは、ただ一つのみ

必要なことは、ただ一つのみ。ルカ10：38－42　　　　　　　　　　　　　　主の2005.11.13　礼拝

昨年１０月岡山の中国教区聖会で二日間メッセージをした後に、岡山の山の中にある閑谷（しずたに）学校跡を見学しました。江戸時代、正式に学問ができるのは武士階級だけで、一般庶民は寺子屋で読み書きを習うことしか許されていませんでした。その時に、岡山藩主は広く一般庶民が学べるようにと考え、学校を開きました。閑谷は、名前の通り静寂な山に囲まれた所で、学校、寮、庭、藩主の休憩所が当時のままに保存されています。学校の中に大広間があり、その中央に机が置いてあります。そこで目を閉じると、先生が机の上に本を広げて講義をし、その一言一句も聞き漏らすまいとして、大勢の年若い生徒が真剣に耳を傾けて学んでいる様子が目に浮かんできました。と同時に、大勢の人々がやって来た時に、キリストは鳥が囀り、野の花が咲き乱れる静寂なガリラヤ湖に近い小高い丘に座り、「幸いなるかな、心貧しく、謙った者よ」と語り、大勢の群集が、目を輝かせ、熱心に耳を傾けている光景が瞼に浮かんできました（マタイ５－７章参照）。

本日はルカ10：38－42です。この箇所で、マリヤが、主の足元に座って熱心に神の言葉を聴いています。キリストは、「マリヤは神の言葉を聴くという良いほうを選んでいる」と言われました。私たちは礼拝を捧げるために集い、讃美の中に主を喜ぶ思いが与えられ、開かれた聖書を通して、各自が心の耳を開き、主の語りかけを聴こうとしています。神の御言葉である聖書を読み、聖書のメッセージを聴く者に、「御言葉が開けると光を放って、無学な者に知恵を与えます」（詩篇119：130）とありますように、神の聖霊が与えられ、御言葉の真理を理解し、神に従う信仰の力が与えられます。聖書を読む者は、聖書朗読の詩篇119：98－100に約束されていたように、「敵にまさる賢さ、人間の教師にまさる知恵、すべての老人にまさる人生に対する洞察力」が与えられます。

今朝、主の御言葉を聴き、心に恵みを与えられ、また様々な問題に対する知恵と力とを与えられ、聖霊によって祈り、新しい一週間の旅路を共に出発して参りましょう。

内　容

1、静まらなければ主の御言葉に遠くなり、不信仰になってしまう。10：38-41

2、静まって主の御言葉を聴く時に、信仰が恵まれる。10：39,42

3、静まって主の御言葉を聴く事を最優先して行く者になろう。10：42

資料問題

マルタとマリヤは姉妹であり、キリストとは親しい間柄であった（ヨハネ１１：１－４４参照）。３８節「ある村」、ベタニア（現在のエル・アザリエ）を指す（ヨハネ11：1－18参照）。４１節「マルタよ、マルタよ」、新約聖書の中で名前を２回呼ばれているのは、「シモン、シモン」（ルカ22：31）、「サウロ、サウロ」（使徒9：4）の、計三例である。４２節「無くてならぬものは多くはない。いや一つだけである」、大切なことはキリストを厚くもてなそうとして種々心配することではなく、まず神の御言葉を聴くことである。ここでは神の御言葉に心を集中することと、様々に心配して心を散らすこととの二つが比較されている。

1、静まらなければ、主の御言葉に遠くなり、不信仰になってしまう。10：38－41

ところが、マルタは接待のことで忙しくて心を取り乱し、イエスのところに来て言った、「主よ、妹がわたしだけに接待をさせているのを、なんともお思いになりませんか。わたしの手伝いをするように妹におっしゃって下さい。主は答えて言われた、「マルタよ、マルタよ、あなたは多くのことに心を配って思い煩っている（気をつかっているー新改訳。思い悩んで心を取り乱しているー新共同訳）。（10：40－41）

キリストと弟子達は旅の途中で、ベタニヤのマルタとマリヤの家に立ち寄っています。マルタはイエス様と弟子達にくつろいでもらおうと、粗相がないようにとあれこれ気をつかい、せっせと働いています。ふと見ると、マリヤは何の手伝いもしないで、イエス様の足元に座り込んでお話を聴いています。マルタは忙しくてカッカしていたので、イエス様に文句を言い、しかも「妹に手伝いをするように言って下さい」とイエス様に指示を与えるような失礼なことをしています。

日本では忙しいことが良い事とされています。何もしないでブラブラしていれば非難されますが、忙しく立ち回っていると文句を言われないようです。しかし、注意しなければならないことは、忙しすぎるとマルタが陥ったように、心を取り乱すというワナに陥ります。これは三段し掛けの巧妙なワナです。

第一段は、「自分だけが忙しい」と思い込み、心が乱れる、心がイラツク、ムカつく、そしてキレます。第二段は、他の人のことが気になり、人を審き、批判するようになり、それを人に言い触らします。

第三段は、感謝の心が失せてしまい、心の中が不平不満で一杯になってしまいます。

私たちはどうでしょうか・・・。社会自体が忙しく動いている中にあって、私たちも忙しい毎日を過ごしています。しかし、幸いなことにクリスチャンは日曜日ごとに礼拝を捧げるために集っています。それは「安息日を聖とせよ。一週間七日のうち六日は働いて、一日は神を礼拝する安息日とせよ」という神の命令に従っているからです（出エジプト20：8－10）。現代医学では、一週間の中で一日を休むということは人間の体のリズム（バイオリズム）に適していると言われています。ところが、現代医学より３５００年以前に、神は安息日を定め、休む事を命じられていたのです。キリスト以前は土曜日が安息日でしたが、キリストが日曜日に復活されたことを記念し、感謝して、教会は日曜日を公の礼拝の日としています。礼拝において、私たちは活きておられるキリストをほめ讃え、キリストの復活の力を受けて心も体も恵まれ、新しくされます。今朝、礼拝に導かれていることを感謝しましょう。種々の事情で、礼拝に見えていない方々のために祈って下さい。

ここでキリストのことを考えてみましょう。キリストは公生涯の間、多忙な日々の連続でしたが、その中でキリストが常に守っていた事があります。五つ言います。

1、キリストの一日は朝の祈りから始まっていた（マルコ1：35）。

2、キリストの一週間は安息日に礼拝をささげることから始まっていた（ルカ4：16）。

3、キリストは聖霊によって喜びに溢れ、伝道の働きをなさっていた（ルカ10：21、使徒10：38）。

4、キリストは十字架を目前にして、常日頃していたように祈りを捧げた（ルカ22：39－41）。

5、キリストは伝道旅行から帰ってきた弟子達に、「人を避けて淋しい所へ行き、しばらく休みなさい」と言われ、弟子達に休息を与えた（マルコ6：30－31）。

私たちはキリストの弟子ですから、キリストに倣って、祈って静まる時を確保するようにする事が大切です。キリストは「隠れた所で祈りなさい。戸を閉じて、ひとり静かになって祈りなさい」と言われました（マタイ6：6）。現代は絶え間なく音があり、明かりがあり、いつの間にか人は静まることを忘れています。携帯電話が普及し、便利ですが、うるさい事も事実です。イギリスに行きましたが、大都市ロンドンから少し離れるだけで、夜になると、外は僅かに街灯がともるぐらいで、家々のカーテンが引かれ、明かりが外にもれない。イギリスは森がたくさん残っていますので日本と比べたら町全体がすっぽりと暗い感じになりますが、頭上には月の光が文字通り煌々と輝いています。テレビを見ないし、携帯はないので、静かな貴重な時を過ごしました。世の中には、人生に関する様々な書物が出版されていますが、どの本にも共通な事柄として「じっとして静かにする時を持ちなさい。そうすると肉体に休みが与えられ、思考が統制され、落ち着く事ができる」という意味のことが述べられています（ブラッドワス・幸福の心理学）。クリスチャンは、人に言われなくても、静まって聖書を読み、祈り、主からの恵みを受けています。どんなに忙しくても一週の初めに礼拝を捧げて、主のメッセージを通して生きる希望を新たにさせられています。私たちはますますキリストに近づき、信仰の恵みを与えられていることを感謝し、今週も主の導きの下に日々を前進して行くように祈りましょう。

2、静まって主の御言葉を聴く時に、信仰が恵まれる。10：39,42

この女にマリヤという妹がいたが、主の足元に座って御言葉に聴き入っていた。・・・「なくてならぬものは多くはない。いや一つだけである、マリヤはその良いほうを選んだのだ。そしてそれは、彼女から取り去ってはならないものである」。（10：39,42）

マルタは忙しくて心を取り乱していますが、マリヤはキリストが語られる神の御言葉に熱心に耳を傾けています。マリヤはお姉さんの手伝いをしなければいけないと思いつつ、キリストの語る恵みの御言葉に心を奪われ、主の足元に座り込んで、一言も聞き漏らすまいとして耳を傾けています。キリストはマリヤのことを「マリヤは良い方を選んだ」と言っておられます。

ここで誤解してならないのは、キリストは御言葉を聞く事が上で、働く事が下であるという比較対照をしているのではないという事です。マルタが接待のことで心を取り乱しているのを見て、マルタは静まることが必要である。静まって御言葉を聞いて心を恵まれ、感謝の気持で接待をすることが大切であるということを教えようとしているのです。彼女のゆとりのない心を静めるために、「マルタよ、マルタよ」と名前を２回呼んでいます。新約聖書の中で名前を２回呼ばれているのはシモン・ペテロとパウロとマルタの３人だけです。マルタの名前を２回呼ぶことによって、キリストはマルタに強い関心と愛をもっていることを示しています。彼女の忙しさを認め、彼女が心を取り乱していることを受け入れています。そして、今この時にマルタに必要なことはマリヤのように御言葉に耳を傾け、心に平安を得ることであることを告げています。

マリヤは主の御言葉に耳を傾けています。現代の私たちは聖書を与えられていますので、聖書を読むことによって、聖霊の助けの下に主の語りかけを心の中に聴くことができます。聖書は神の御言葉であり、私たちの信仰と生活の唯一の基準です。では聖書とはなんでしょうか。聖書の言葉で説明しましょう。

聖書は

＊私たちの心を映し出す鏡（ヤコブ1：23－24）A mirror that reflects our hearts

＊歩むべき道を照らすともし火（詩篇119：105）A light for our path

＊心の中を切り開く両刃のつるぎ（ヘブル4：12）A double-edged sword that divides soul and spirit

＊頑なな心を打ち砕く金槌（エレミヤ23：29）A hammer that shatters a stubborn heart

＊サタンに向う御霊の剣（エペソ6：17）A sword of the Spirit to stand up against Satan

＊人を成長させる霊の乳（Ⅰペテロ2：2）Spiritual milk that helps you grow

聖書について五つの必要なこと　5 things you need to do with the Bible

1、聞く（ローマ10：17）Listen

2、読む（Ⅱテモテ3：15）Read

3、学ぶ（詩篇119：7）Learn

4、暗記する（詩篇119：11）Memorize

5、黙想し、自分にあてはめる（適用する）（詩篇１：2）Meditate and apply the Word yourself

　マリヤは御言葉を聴いて心恵まれ、新しい命の力を受けています。キリストはマリヤの御言葉を真剣に聞く態度を喜ばれ、「無くてならぬものは多くはない。いや一つだけである」と言われ、御言葉を聴く事の重要性を告げています。聖書を読む時に、人生が恵みに変わります。

一人の死刑囚の証があります（名前は公表されていません）。彼は商売の話で出かけますが、口論になり、相手の二人を殺すという罪を犯します。年老いた両親のこと、二人の子どものことを思い、その場で自殺しようとしますが果せず、逮捕されます。親戚中から、近所の人から絶縁されます。ところがクリスチャンで会ったお姉さんが、検事に掛け合い、特別許可で面会を許された。彼は姉から責められると思っていたら、ただ諄々とキリスとの恵みを語ってくれた。彼の心「聖書を読みたい」という願いが起り、特別に聖書を差し入れてもらい、薄暗い独房の中で聖書をむさぼり読みます。読むうちに、自分の罪の恐ろしさに震え、イエス様を信じれば救われるということが分かったのですが、しかし自分のような重罪人はとても救われないと思った、しかし読み続けます。ルカ23：29－43の中で、３本の十字架が立った。真中には私たちの罪を背負って身代りになったキリストがいる。その脇にいた犯罪人の一人が「私は罪を犯した。だから死刑という報いを受けている。だがイエス様は何の罪も犯していないお方だ。イエス様、あなた様が御国の位につく時には私を思い出して下さい」とキリストに罪の赦しと救いとを求めます。キリストは即座に「私があなたの罪を赦す。罪を赦されたあなたは、今日わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」と答えています。彼は、そこを読んだ時に、イエス様の救いが自分にも与えられることを信じ、泣いてひれ伏し、罪を告白し、キリストの十字架を信じて救われます。その後、特例によって獄中で洗礼を受けます。それから８年後に死刑を執行されるまで、獄中で聖書研究会をすることを許され、多くの囚人たちをキリストの救いに導く働きをしました。怒り狂って二人の人を殺すという罪を犯しましたが、クリスチャンの姉の祈りと導きにより、聖書を読み、生まれ変わり、獄中でキリストを伝道するという働きをすることができました。まことに「御言葉には魂を救う力がある」ということは真実です。私も含めて、ここにいるス全ての方々が、聖書を通してキリストの救いに与りました。聖書を通して、語りかける主の御言葉を、マリヤのように私たちも慕い求めて行きましょう。

3、静まって、主の御言葉を最優先して行く者になろう。１０：４２後半

「マリヤはその良いほうを選んだのだ。そしてそれは、彼女から取り去ってはならないものである」。（10：４２後半）

＊話を閉じる前に聖書の問題を出します。

質問「聖書で一番短い章はどこでしょうか？」。答「詩篇１１７篇です（２節しかない）」。

質問「聖書で一番長い章はどこでしょうか？」。答「詩篇１１９篇です（１７６節ある）」。

質問「聖書のど真ん中にある章はどこでしょうか？」。答「詩篇１１８篇です（詩篇１１８篇以前は５９４章、詩篇１１8篇以降は５９４章）。　　　　　　　　　　　　　　　　　（聖書問題は「御翼・佐藤順師」より引用）

　クリスチャンであることを感謝して、毎日聖書を読みましょう。創世記から黙示録まで聖書全体を読みましょう。教会の聖書日課は約３年で旧約全体を読み、新約を３回半読めるようになっています。一日に旧約１章、新約１章ですので、無理なく全体を読めるようになっています。

マリヤの時代には、キリストから直接に御言葉を聴きました。キリストが天に帰られてからは、キリストの言葉を中心にして新約聖書が与えられ、旧約聖書と一つになって聖書となりました。今の私たちは聖書を通して、キリストの語りかけを聴いています。ですから正しい聖書の読み方はキリスト中心です。キリストは言われました、「あなた方は聖書の中に永遠の命があると思って調べているが、この聖書はわたしについて証をするものである」（ヨハネ5：39）。

今週も聖書を読みながら毎日を進んで下さい、聖書を読むと、キリストの事がわかり、祈りたくなります。祈ると、また聖書を読みたくなります。八木重吉という詩人がいました（1898－1927）。彼は結核に冒され、死との隣り合わせの中で自分の心の罪と戦い、キリストのうちに救いを見出します。彼は、『芭蕉のようになるな/人麿のようになるな/きりすとだけがただし（正しいの意）』（八木重吉詩集）と歌っています。自然を歌った芭蕉、人情を歌った人麿を否定し、十字架に上って人の罪の身代りになって命を捧げ、死を打ち破って復活された、永遠に活きているキリストにこそ救いがあることを告白しています。

皆さんの祈りの課題は何でしょうか。問題は何でしょうか。祈りましょう。聖書の中で、キリストは「わたしの名よって願うならば、わたしはそれをかなえてあげよう」と約束されています（ヨハネ14：14）。八木重吉が歌ったようにキリストだけが正しく、キリストだけが愛をもって、私たちの祈りに答えて下さいます。

まとめ

1、10：41－41、静まらなければ、主の御言葉に遠くなり、不信仰になってしまいます。まず。静まり、主の御言葉に親しみ、主を礼拝して行くことが恵まれる秘訣です。

2、10：39,42、静まって、主の御言葉を聴く時に信仰が恵まれます。

3、１０；４２後半、静まって、主の御言葉を最優先して求めて下さい。御言葉の中心はキリストです。キリストは活きている救主です。キリストの助け、導きを求めて祈りましょう。

＊聖歌514（旧496）「主と主のことばに頼るは楽し」を讃美し、祈ります。

祈　り　天地の主である神様、キリストによって救われ、聖書の御言葉に従って日々を導かれていることを感謝します。忙しい生活の中にあって静まる時間を確保し、聖書を読み、祈る生活を続けることができるように、聖霊の力をもって私たちを導いて下さい。それぞれのファミリーを祝福して下さい。病気の方々を癒し、戦いの中にある方々に勝利を与え、仕事を祝福し、家族を守って下さい。１２月４日のケイラー師特別集会を祝福して下さい。我らの主イエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献ルカ注解―黒崎、フランシスコ会、LAB,口語略解、バークレー。「この人の生涯に学ぶ・レムナント」、「日本人の回心・新教」