神の国を求める者は、日常生活を愛をもって貫く　　ロマ12：9

神の国を求める者は、日常生活を愛をもって貫く　　ロマ12：9－21　主の2006.2.12礼拝

江戸前期、千葉県北部の佐倉を堀田正盛という殿様が治めていました。領民たちは過酷な税金に苦しみ、名主佐倉宗五郎（本名は木内惣五郎）は、江戸に行き、領民を代表して将軍家光に直訴をし、捕らえられてしまいます。直訴はご法度という当時の掟により、佐倉宗五郎は家族もろともハリツケという極刑を言い渡されます。ハリツケにされながら、佐倉宗五郎は「七たび生まれ変わって、この怨みを晴らす」と叫んで死んで行ったと伝えられています。ハリツケにされたということで、私たちはすぐにキリストのことを思い起します。キリストは罪がないのに十字架に両手両足を釘付けにされ、脇腹に槍を刺されます。その苦しい十字架の上で、キリストは誰をも怨まず、死んで祟ってやるとも言わず、「父なる神よ、私を十字架につけた人々を赦して下さい」（ルカ23：34）という祈りを捧げ、神に全てを任せて息を引き取って行かれました。十字架の傍にいて、キリストの愛と赦しの祈りを聴いたロマの百卒長は、「この人は、まことに神の子であった」と告白しています（マルコ15：39）。

本日はロマ12：9－21です。１９節に「愛する者たちよ。自分で復讐をしないで、むしろ、神の怒りに任せなさい」、２１節に「善をもって悪に勝ちなさい」という御言葉があります。佐倉宗五郎は復讐の言葉を叫びながら、怨みを残して死んで行きました。キリストは十字架の上で、「父なる神よ、彼らを赦したまえ」と祈りながら、私たちの罪の身代りになって、その尊い潔い命を捧げて下さいました。キリストの十字架によって「善をもって悪に勝て」ということが実際に表されました。

本日の聖書箇所には、クリスチャン生活を貫く愛についての教えがあります。ロマ書を記した使徒パウロは、キリストの十字架の愛を受けた者は、怨みをすて、愛と善の心をもって人に接して行こうと訴えています。「まず神の国と神の義とを求めて生きる」（マタイ6：33）私たちクリスチャンは、日常生活においてどのようにして愛の実践をして行くべきかについて、主のメッセージを共に聴き、祈って、新しい一蹴間を始めて参りましょう。

内　容

1、私たちの生活原理はキリストの愛である。12：9－13

2、私たちはキリストにあって喜びを分かち合い、悲しみを担い合う。12：14－18

3、私たちはキリストを信じ、善悪を審かれる神に全てを委ねる。12：19－21

資料問題

ロマ書は使徒パウロが紀元５７年に記したが、この時すでにロマにも福音が伝えられ、ロマ教会が活動していた。ペンテコステの日に世界中からの人々が集り、聖霊に満たされたペテロによって福音が語られ、ロマから来ていた人々が回心し、その結果ロマ教会が誕生したと考えられる。パウロは、当時の世界の首都ロマ教会を訪問し、世界の果てと言われたイスパニア伝道へ赴く志をもっていた。そこでロマ訪問に先立ち、書簡を送り、自己紹をし、キリストの福音について順序正しく論述している。1－8章はキリストによる救い、９－１１章はユダヤ人の救い、１２－１５章はクリスチャン生活の実際、１６章はロマ教会にいる友人たちへの挨拶という構成になっている。

1、私たちの生活原理はキリストの愛である。12：9－13

愛には偽りがあってはならない。(９節)

私たちが常に思い起こして感謝することは、私たちひとり一人がキリストによって愛されているという事実です。キリストの愛の特徴は、「主はわたしたちのために命を棄てて下さった。それによってわたしたちは愛ということを知った」（Ⅰヨハネ3：16）と言う十字架による捨て身の愛です。ご自分の身を犠牲にして、命を捧げて表された愛です。この愛によって私たちは愛され、救われました。

ここで、愛ということについて考えてみましょう。

人間の愛は「もし」という条件つきの愛です。「もし、あなたが立派になれば愛する」、「もし、お前がいい成績をとったら愛してあげる」、「もし、私の願いをかなえてくれたらあなたを愛する」という、自分の願いや欲望を満たしてくれたら愛するという愛です。人はその条件を満たそうと努力し、頑張るという類の愛で疲れます。条件を満たしているかどうか、常に相手の顔色をうかがうという不安な愛です。

人間の愛は「だから」という理由つきの愛です。「あなたは立派で美しい、だから愛する」、「お前はいい成績をとった、だから愛する」、「私の願いをかなえてくれた。だから愛する」という、理由つきの愛です。愛されるために美しい、いい成績をとる、願いをかなえるという理由がある間はいいのですが、その理由がなくなれば、愛されなくなってしまうという不安定な愛です。

キリストの愛は「それでも」という無条件の愛です。「立派である。願いをかなえてくれる。美しいなどの条件、理由がなくてもいい。わたしはあなたを誰よりも尊い宝のように思い、愛する」という愛です。十字架にかけられた犯罪人がキリストに赦しと救いを求めた時に、キリストは彼の罪を赦し、永遠の命を与えています。彼は死刑にされるほどの極悪人であり、教会に行ったこともないでしょうし、十字架からおりて人生のやり直しをする機会もない者でした。しかしキリストは悔改めて赦しと救いとを求めた男を赦し、受け入れて下さいました（ルカ23；40－43）。私たちも、キリストの無条件の愛によって救われていることを感謝します。

私たちはキリストの愛によって救われていますが、だからと言って、私たち自身が一足飛びに愛の人になれるわけではありません。９節以下にある教えを実践することによって、私たちが愛の人として成長して行くことができます。今、まず９－１２節までを取り上げて行きます。

９－１２節までの間に、愛の実践について１２の教えがありますが、全部を取り上げる時間がないので幾つかを取り上げます。

まず「愛には偽りがあってはならない」（9節）と言われています。キリストの愛を受け、キリストを愛しているなら、キリストに従います。キリストに従うために聖書を読み、祈りの生活をします。口では「イエス様、感謝します」と言いながら聖書を読まない、祈らないとすれば、それは偽りとなります。

「悪は憎み退け、善には親しみ結ぶ」（９節）者になります。これは罪を憎んで、徹底的に罪から離れることです。私の中学時代に小野修道士が「神様はみているよ。だから良いことはどんどんしなさい。だが悪い事は一つもするな。神様は見逃さないから」と教えてくれた事を忘れることが出来ません。最近のニュースで耐震偽装問題、粉飾決算、談合事件などが報じられています。問題が発覚すると、「分からなければ、それでいいと思っていた」という関係者の言葉が報じられますが、罪は隠せないのです。必ず白日のもとに曝されます。この世で表れなくても、最後の審判で全てが明らかになります（Ⅱコリント5：10）。私は中学時代に、小野修道士が「神は見ている」と教えてくれたことを感謝しています。

「尊敬し合う」（１０節）とあります。「進んで」という言葉がついています。キリストは神の独り子であったのに、弟子達の足を進んで洗っています（ヨハネ１３章）。足を洗うことは奴隷の仕事です。キリストは、「先生であるわたしが、あなた方の足を洗うのである。わたしに見習い、あなた方も謙って人に仕えるようになりなさい」と教えながら、実際に弟子達の足を洗い、「尊敬し合う」ことを教えてくれました。

「常に祈りなさい」（１２節）とあります。祈っていますか・・・。健康のこと、経済のこと、人間関係のこと、進学のこと、結婚のことなど、どんな事でも主イエス・キリストの御名によって、神様に祈って下さい（ヨハネ14：14）。私に祈るという恵みがなければ、牧師を務めることは一分もできないでしょう。朝、「私の人生に新しい一日を加えていただき感謝します」という感謝をもって起き上がり、早天祈祷会で祈って一日が始まると平安です。聖霊によって祈る恵みを与えられていることを感謝します。

「貧しい聖徒を助け、努めて旅人をもてなしなさい」（１３節）とあります。ティンデルは「クリスチャンは港のような性質を持つべきである」と言っています。私たちのホームが港のように、人々を受け入れる場になり、慰めと力とを供給することができたら幸いです。

2、私たちはキリストにあって喜びを分ち合い、悲しみを担い合う。12：14－18

喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい。〈１５節〉

１４節に「あなた方を迫害する者を祝福しなさい。祝福して呪ってはならない」と言われています。キリストは十字架上で、ご自分を迫害し、殺す者のために祈りました（ルカ23：34）。この手紙を記した使徒パウロは、救われる前はクリスチャンを迫害する者でした。ステパノがキリストを伝えたために、石打ちの刑を受けた時に、パウロは上着を脱いで石を投げる人々のために、上着を預かる番をしていました。ステパノが飛んでくる石に打たれながら、「主よ、どうぞ、この罪を彼らに負わせないで下さい」と祈りながら殉教の死を遂げるのを、始めから終りまで、ずっと見ていたのです（使徒9：54－60）。ステパノの祈りの姿、人々のための祈りの言葉が、パウロをクリスチャンにする大きな動機になった事は疑い得ないことです。後にステパノの祈りがキリストの十字架の祈りに由来していることを知り、パウロ自身も迫害者を怨まず、彼らの救いのために祈っています（ピリピ3：18）。

１５節は心を探られる御言葉です。泣く者と共に泣くことは出来やすいかも知れません。喜ぶということ、例えば他人の成功を自分のことのように喜ぶことは難しいかも知れません。クリュソストモスは次のように言っています、「泣く者と共に泣くより、喜ぶ者と共に喜ぶことが、高潔なキリスト者の気質をより一層必要としている。災難にあった人のために悲しまないような無情な人はいない。しかしもう一方は非常に高潔な魂を必要とする。それは嫉妬から遠ざかるだけでなく、称賛されている人と喜びを共にするからである。」。他人の成功を祝うことは、特にもしその成功がわれわれに落胆を伴うならば、彼の悲しみや失敗に同情することよりも一層難しいのです。

ここで思うことは、喜びを共にする、悲しみを担い合うということはクリスチャンになって、私たちの心がキリストによって創りかえられて始めて出来ることだと言うことです。

キリストは喜びを共にして下さるお方です。エリコの町の取税人ザアカイがキリストと出会い、「自分はお金に執着しない。自分の人生をやり直して行きます」という信仰告白をしました。キリストは、「きょう救いがこの家に来た。この人も私たちと同じ信仰の先祖アブラハムの子孫の仲間である」と言って、ユダヤ社会から仲間はずれにされていた彼を受け入れ、彼の救いを喜び、祝福を与えています（ルカ19：1－10）。

キリストは悲しみを共にして下さるお方です。弟ラザロを亡くして悲しみに沈むマルタを見、またマリヤと彼女を取り囲む大勢の人々の涙をご覧になって、「イエスは涙を流された」と記されています（ヨハネ11：35）。この時はラザロを復活させるという大奇蹟を表しています。

私たちは、キリストを心に宿す者です。喜びをもたらし、悲しみを担って下さるキリストによって、心から他の人の喜びを共に喜び合い、悲しみを共に担い合って行くことが出来るように変えられてきているはずです。

熊谷で最初に伝道を始めたのはアメリカよりの宣教師クラー先生です（日本、フィリピンの宣教師を終えて今はアメリカにいます）。私たちはクラー先生の伝道を引き継ぐ形で開拓伝道を始めることになり、今日に至っています。熊谷のために祈り続けているクラー先生に、折りにふれて、熊谷の様子を知らせています。熊谷の教会が成長して行く度ごとに、先生は無条件で喜んでくれます。「私が最初に熊谷を開拓した」「経済的サポートもしてあげた」「アメリカの教会に訴えて会堂献金を送った」などと言う恩着せがましいことを一つも言わず、「Praise　the　Lord!」と、ただ主の恵みを喜んで、感謝してくれます。個人的な事ですが、「私は神学校で教えています」と言った時に、日本語で「私はそれを聞いてとても良い感じだ。うれしい」と言ってくれました。クラー先生から、喜ぶ者と共に喜ぶという姿を教えられて、私もまた人のことを素直に、共に喜んで行く者にさせていただくように、祈り、努めています。

3、私たちはキリストを信じ、善悪を審かれる神に全てを委ねる。12：19－21

愛する者達よ。自分で復讐しないで、むしろ、神の怒りに任せなさい。なぜなら、「主が言われる。復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する」と書いてあるからである。（１９節）

１６－１８節にも大切な教えがありますので心に留めて下さい。今は時間の関係で前へ進みます。

１９節に「自分で復讐するな」と言われています。私たちは、やられたらやり返すということを教えられてきました。しかし、「復讐は主である神がすることである」（申命記32：35よりの引用）とハッキリと告げられています。キリストが来られて、十字架によってこの愛の教えが実現しました。キリストは「敵のために祈れ、迫害する者のために祈れ」と教え（マタイ5：44）、十字架の上で「父なる神よ、彼らを赦したまえ」（ルカ23：34）と祈っています。キリストは教えた事を実践されているまことの救主です。私たちもキリストに倣って、２０節（箴言25：21,22よりの引用）にあるように敵のために仕返しではなく、愛を行いさないという教えに従って行くことが大事です。それは「相手の頭に燃えさかる炭火を積むことになる」と言われています。相手を責めれば責めるほど、人は自分のことを覆い隠そうとして身構えます。反対に相手に愛を示せば示すほど、それは燃えさかる炭火を相手の頭に積むことになる。燃えさかる炭火とは後悔の念が強くなると言う意味で、愛によって相手の冷たい心は和らぎ、自責の念に駆られ悔改めるようになることを意味しています。

牧会伝道の現場にいて、教会の中、また教会の外、教団のことなど様々なことを見たり聞いたりして来ました。そこで知らされたことは人を責め、悪口を言い、陰口を撒き散らす、政治力を作って仲間を増やして事を行ったりする者は、結局は自滅、また信用を失うなどの報いを受けていることです。私たちは、いつでも神に頼って行く時に平安があります。人の世の中では、裁判で冤罪ということがあります。しかし神様は正しく事を審かれます。自分がしっかりキリストにつながっていれば、恐れるものは何もありません。

アメリカのシューラー牧師の教会には多くの人々が集っています。時々教会をかき回す人がいる。事毎に教会運営にケチをつけ、自分の不平不満を並べ立てて、それを噂として撒き散らす。たまりかねて役員が「先生、あの人に注意しましょう。もし聞き入れなければ何か処分をして下さい」と言ってくる。シューラー牧師は、「主に祈ろう、まず祈ろう。審きは神がなさって下さる」ということで軽率に動かない。やがて、いつの間にか、かき回していた本人やグループがいなくなってしまい、教会は平静になり、恵みのうちに成長を遂げて行くという証をされています。

私たちも祈りましょう。祈る時に、主は最善をもって全てを導かれます。私たち夫婦が主の僕として、主の御心にかなった牧会者として支えられて行くように祈って下さい。改めてお願いします。

キリストは山上の説教の中で、「人をさばくな。自分がさばかれないためである。あなた方がさばくそのさばきで、自分もさばかれ、あなた方が量るそのはかりで、自分にも量り与えられるであろう」（マタイ7：1－2）と言われました。自分が噂の発信基地、中継基地にならないようにして下さい。噂を聞いたら、自分の所でストップして、主に祈って下さい。憎らしい相手に仕返しではなく、まず相手のために祈るようにして下さい。人は自分の蒔いたものを刈り取ります。良いものを蒔けば恵みが与えれます。悪いものを蒔けば、間違いなく悪いものを刈り取ります（ガラテヤ6：7－10）。

まとめ

1、９節、私たちはキリストの「それでも」という無条件の愛で愛されています。愛の印は十字架です。悪を退け、尊敬し合い、祈り合い、人を受け入れ、もてなす者であるように祈りましょう。

2、１５節、私たちは喜びを共にし、悲しみを担い合って行くように祈りましょう。

3、１９節、私たちは善悪を全て審かれる主に信頼して行きましょう。悪いことの発信基地、中継基地ではなく、愛と赦しの発信基地になって行くように祈りましょう。

祈　り　　天地の主である神様、独り子イエス・キリストの救いによって、私たちひとり一人が神の子の仲間に加えられていることを感謝します。キリストの無条件の愛で愛されていることを感謝します。互いに喜び、悲しみを共にして祈り合って行く者であるように導いて下さい。善悪を全て審判される神に信頼して、人を審くという愚かなことをしないように助けて下さい。各ファミリー、子どもファミリーを祝福して下さい。愛を与えて下さる永遠の救主であるイエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献ロマ注解―バークレー、尾山、フランシスコ会、黒崎、ＬＡＢ、木村、福田。「御翼・佐藤順著」