神の国を求める者は、弱さの中に働く主の恵みを信じる

神の国を求める者は、弱さの中に働く主の恵みを信じる。コリント第二12：7－10　主の２００６．２．１９礼拝

アメリカは開拓時代、アフリカ大陸より不法に拉致してきたアフリカ原住民である黒人を奴隷として使っていました。この非人道的な奴隷制度の存廃を賭けて南北戦争（Civil War　1861－65）が起り、奴隷制度を支持する南部が敗れ、リンカーン大統領（1809－65）によって奴隷解放が行われました。しかし、実際には黒人に対する差別はその後も依然として続きました。例えば、野球の大リーグは白人のみで行われ、黒人は入れてもらえず、別のリーグを作っていました。南部では、バスには白人優先の席があり、黒人は後ろのほうに押し込められて乗るという状況でした。リンカーン奴隷解放から約１００年後にキング牧師が差別撤廃に立ち上がり、抗議運動を展開します。彼が取った抗議運動は非暴力でした。抗議のために座り込んでいる黒人たちを、警官が殴ったり蹴ったりし、消防用ホースで水をかけるという荒っぽいことをします。しかし、どんな場合でも抵抗しないという非暴力を貫きます。そして、遂に全ての差別撤廃という成果を勝ち取って行きます。

本日の聖書個所は第二コリント12：7－10です。９節に「わたしの恵みはあなたに対して充分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる（わが恩恵（めぐみ）なんじに足れリ、わが能力（ちから）は弱きうちに全うせらるればなり）」）という御言葉があります。人が自分の弱さを知り、神に全てを任せる時に神の不思議な力が働きます。キング牧師は暴力という手段を使わないで、神に祈りつつ、最も弱い、無力な形である非暴力を貫くことによって、アメリカ政府を動かし長年にわたる差別の壁を打ち砕くことが出来たのです。私たちは弱さを嘆き、不甲斐ないと思って自分を責めます。先ほどの聖書朗読の詩篇121：2を思いだして下さい。詩人は「わが助けは天と地を造られた主から来る」と主への信仰を告白しています。自分を見たり、周りを見るのではなく、天地を造られ、独り子であるキリストの十字架によって恵みを与えて下さる主なる神に信頼する時に、助けが与えられます。必ず「わがめぐみ、汝に足れり」という信仰の祝福を受けることができます。聖書を通して語りかけて下さる主のメッセージに耳を傾け、共に祈って新しい一週間を出発して参りましょう。

内　容

1、主はサタンから私たちを守って下さる。12：78

2、主は私たちに充分な力を与えて下さる。12：8－9前半

3、主の恵みに感謝し、主の助けを信じて祈ろう。12：9後半―10

資料問題

コリント書は二通あり（第一、第二の手紙）、紀元５７年使徒パウロによって、ギリシャの町コリントにある教会宛に記されたもの。異教の地のただ中にあって信仰生活をしている人々を励まし、派閥問題、偶像問題、結婚、霊の賜物、聖餐式、福音の最大ポイントである十字架と復活、最大の賜物である愛、コリント教会を開拓した恩師であるパウロを排斥しようとする人々への対処など、今日の教会に共通する実際的問題が取り扱われている。本日の個所で、パウロは数々の苦難に打ち勝ち（11：23－33）、第三の天にまで行く（12：1－6）という常人を越えた体験を語りつつ、自分は弱い者であり、その弱さの中に働く計り知れない主の恵みを記している。

1、主はサタンから私たちを守って下さる。12：7－8

そこで、高慢にならないように、わたしの肉体に一つのとげが与えられた。それは、高慢にならないように、わたしを打つサタンの使いなのである。（７節）

聖霊に導かれてコリント書を記したのは使徒パウロです。コリントはギリシャの町で、偶像礼拝の盛んな所です。この町でパウロは、「わたしは十字架につけられたキリスト以外のことは何も知るまい」（Ⅰコリ2：2）という大きな決心をもって、聖霊の力によってキリストの十字架と復活を一年半にわたって伝道し（使徒18：11）、コリント教会ガ生まれ、教会は祝福されて行きます。やがて、パウロは他の地方に伝道に行きますが、彼は手紙などを通してコリント教会内部の問題を知ります。その問題とは、一つは彼らが信仰上の事柄で答を求めていること（例：結婚の事、霊の賜物など）、二つは教会内部に派閥争いが発生したこと、三つはコリント教会の恩人であるパウロを軽んじる人々が現れて教会全体が混乱していることなどです。そこで、パウロは手紙をとおして問題収拾のための教えをコリント教会に書き送ります。パウロは長い２通の手紙を記しましたが、今朝お開きした所は、２通目の手紙を閉じる前に、彼の個人的な体験を通して主の恵みを伝えている個所です。

この個所の少し前の、11：23－33にパウロの信仰上の戦い、12：1－6にパウロの「第三の天」に引き上げられたという神秘的な霊の体験が語られています。これらを通して、パウロは信仰の勇者であるという印象を受けますが、７節に、パウロは「自分に肉体のとげがある」ということを告げています。肉体のとげとは、目の病気からくる頭痛、癲癇性の病気、マラリヤによる熱病のどれかと言われていますが、彼は自分の抱えている弱さを正直に打ち明けています。７節に「高慢にならないように（高ぶることのないように）」という２回言われているので、パウロは肉体のとげであい病気のことを信仰的に捉えていることが分かります。しかし、サタンは、肉体のとげをもっていることを不満に思わせ、神様に対する怨み、呟き、愚痴を言わせようとしてパウロを苦しめています。

サタンのことですが、サタンはいつでも神様に反対し、人間を不信仰に陥れようとしています。サタンは神様の存在を信じていますが、あくまでも神様に反抗し、神様に従わない悪の王です。ヤコブは、「あなたは、神はただひとりであると信じているか。それは結構である。悪霊どもでさえ信じておののいている。ああ愚かな人よ。行いを伴わない信仰の虚しいことを知りたいのか」（ヤコブ2：19－20）と言っています。それは「あなたがどんなに神様を信じると言っても、実際に神の御言葉である聖書に従わないならば、それは何の役にも立たない愚かなことである、不信仰である」という意味です。悪霊どもはキリストを見ると、「あなたは神の独り子キリストである」と言いながらも、結局はキリストを信じないで、キリストから追放されています（マルコ5：1－13）。

サタンは、パウロに対し、「お前はキリストを信じ、生まれ変わったと言っている。伝道者として救いを説き、癒しを説いているが、お前には肉体のとげが依然としてあるではないか。信仰をもって勝利して来たとか第三の天にまで行ったと言っているが、なぜお前の肉体のとげは消えないのか」としつこく言います。私たちも病気をしたり、仕事を失ったり、トラブルに巻き込まれたりなどする時に、サタンは「なぜお前の問題は解決しないのか。それでもクリスチャンか」などと攻めてきます。そんな時に、私はイエス・キリストの体験された「荒野の試み」を思い出します。四十日四十夜断食をしたキリストに対し、サタンは「石をパンに変えよ。奇蹟を表せ。世界中の富が欲しくないのか」と攻撃して来ました。それに対しキリストは、「何かすごいことをしたり、何かご利益があることを願うのは本当の信仰ではない。本当の信仰とは何があっても神様は真実であることを信じて、神様の御言葉である聖書に従うことだ」と答えて、サタンを撃退しています（マタイ4：1－11）。

サタンは、いつでも失ったものを数えさせ、失望を与え、私たちの信仰をくじこうとします。「何故お前は健康を失ったのか」、「何故お前は仕事を失ったのか」、「なぜ、なぜ」と言います。私もそんなサタンの攻勢の中を何回も通ってきました。娘が大学生の時に「神を信じられない」と言ったことがあります。親としては「小さい時から神様を信じてきたのに何故ですか」と叫びたくなるような苦しい時でしたが、家内が娘を愛と祈りをもってしっかりと支えてくれました。私も祈っていましたが、娘が「信仰を確かめに行く」と言って、大きなスーツケースを２個抱えて、突然イギリスの聖書学校に出発しました。そして半年ぐらいしてから、「イエス様を信じて生まれ変わった」という喜びの便りが届きました。それは信じて祈って下さった多くの方々の祈りがあったからです。何よりも天において祈っておられるキリストが、サタンがもたらした娘の不信仰の思いを打ち砕いて下さったからです。キリストは聖霊をおくって娘に十字架の救いを鮮やかに示し、告白させたのです。キリストはあらゆるサタンの力を打ち砕かれる救主です。キリストの勝利の御名を讃えます。

2、主は私たちに充分な力を与えて下さる。１２:8－９前半

ところが、主が言われた、「わたしの恵みはあなたに対して十分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」。（９節前半）

パウロは、８節、自分の肉体のとげである病気について３回祈ったと述べています。３回というのは徹底的に、一生懸命にお祈りしたことを示しています。キリストも十字架を前にしてゲッセマネの園で、神様の御心を求めて３回の祈りをささげ、十字架に向って行かれました（マタイ26：44－45）。パウロは３回真剣に祈りましたが、癒されるということは実現しませんでした。パウロは、「なぜ自分の祈りが届かないのか」という思いをもったかも知れません。その時に主イエス・キリストの御言葉が彼の心に響き渡りました。主は、「わたしの恵みはあなたに対して十分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」とパウロに語りかけています。これはいったい何を私たちに告げようとしているのでしょうか・・・。その意味するところは次のようです。

「わたしの恵みはあなたに対して十分である」・・・わたしイエス・キリストは十字架によってあなたに救いをもたらし、復活によって永遠の命を与えた。日々あなたの経済を満たし、健康を支え、伝道の働きを導いている。わたしイエス・キリストは、あなたに充分な恵みを与えているではないか。

「わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」・・・あなたは癒しを願っている。あなたは肉体のとげを不必要であると考えている。だが、あなたには肉体のとげが必要である。もし肉体のとげが無くなれば、あなたは自分の力で何でも出来ると思うようになるであろう。あなたは肉体のとげがあるために、わたしイエス・キリストに頼りきって、もっともっとわたしに祈るであろう。その時にわたしの恵みは十分に表されるであろう。だから、あなたは弱い時にわたしの力によって強いのである。

では、「わたしの恵みはあなたに対し十分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」ということは今でも本当でしょうか。私たちは強いもの、美しいもの、権力あるもの、お金のあるものが価ありとされる世の中に生きています。「わたしの力は弱いところにあらわれる」というのは、世の中にあって通用するのでしょうか。

星野富弘さんは学校の先生になり、体育授業で生徒に跳び箱の模範演技を見せる時に着地に失敗し、首から下が完全に麻痺し、まったく動かなくるという悲劇に見舞われます。大学を卒業して教員になって間もなくの時であり、一命を取り留めましたが、これから先の長い一生を寝たきりのまま、洗面、食べること、排泄などあらゆることを人にお世話になりながら生きなければならないということになってしまったのです。絶望の日々でしたが、病院訪問をしているクリスチャンの方々を通して、聖書を読むようになり、イエス・キリストの救いに与ります。首から下は全く動きませんが、寝たきりのまま口に筆をくわえ、字を書き、絵を描く練習をして、それができるようになります。星野さんは身動き一つ出来ない身ですが、お祈りに来てくれるクリスチャン女性と結婚をします。星野さんは、「もし、自分が健康のままでいたらイエス様を信じることもなく、滅びに向う人生でした。しかし自分が無力で弱い者になった時に、心の目が開かれ、罪を悔改めてイエス様を信じることができるようになった」と言っています。主の恵みは、星野さんの弱いところを通して完全に現れ続けています。星野さんが口に絵筆をぃわえて書く詩と絵は多くの人々を励ましています。群馬県に富弘美術館が建ち、連日多くの人々が訪れています。カレンダーを作成し、書物を出版し、ノンクリスチャンに対し、大きな証をしています。

「わたしの恵みはあなたに対して充分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」とは本当です。弱い私たちを支えて下さるキリストの恵みに祈って縋りましょう。星野さんのように、人間の力ではなく、キリストの力に頼って行くならば、キリストの恵みが現れます。今朝、あなたの抱えている弱さを主に打ち明けて祈って下さい、必ずキリストの助けが与えられます。

3、主の恵みに感謝し、主の助けを信じて祈ろう。１２：９後半―10

だから、わたしはキリストのためならば、弱さと、侮辱と、危機と、迫害と、行き詰まりとに甘んじよう。なぜなら、わたしが弱い時にこそ、わたしは強いからである（１０節）

短く最後の点をみて祈ります。パウロは、キリストのために弱さ、侮辱、危機（苦痛）、迫害、行き詰まり（困難）に甘んじようと言っています。甘んじようとは、満足に思うという意味があります。信仰のために、嫌がらせを受けたり、圧迫されたり、迫害されるであろう。自分の信仰が弱くて何で自分はダメなんだろうと思う時があるかも知れない。実は、自分の無力を知り、追い詰められるような時にこそ主が働いて下さる時です。私自身のささやかな経験を言います。教会へ行くことは反対されませんでしたが、洗礼を受けると言った時に反対されました。反対の理由は別になく、ただ反対という事でしたが、私はさっと受けてしまいました。しばらくしてから「受けた」と報告しました。その次に献身するという時には本当に反対されました。叔父も反対ということでいろいろ言われました。しかし強行突破で、家に帰らない覚悟で献身しました。２0年ぐらい経って、私の父母の召天記念会を、親戚一同に熊谷に来てもらってしたことがあります。始めて教会という所に入った叔父は「良い道に進んだな」とポツリと言いました。私があれこれ弁明したり、何かをしたのではなく、弱い私を通してキリストが親族一同の心に働いて下さったのです。私はただキリストに縋って、信仰の道を歩み続けただけです。

主イエス・キリストは恵みの主です。弱くても、足りなくても、信仰が薄くてもかまわない。大事なのはキリストに結びつき、聖書に従って行くことです。私たちは弱くても、主は強いお方です。弱いことを嘆くのではなく、私たちが弱い時にこそ主の強さ、恵み、力、導きが豊かに表されます。

まとめ

1、７節、主はサタンの誘惑、攻撃から私たちを守ってくれます。恵みを数え感謝し、祈りましょう。

2、９節前半、主は私たちに充分な力を下さいます。私たちは弱いからこそ主に縋ります。その時に主は豊かな恵みと力とを与えて下さいます。主に縋って祈りましょう。

3、１０節、主は私たちを助けて下さいます。今朝、主の助けを求めて祈りましょう。

＊主イエス・キリストは弱い私たちを助けて下さる愛と力に満ちている、今も生きている救主です。讃美歌「主われを愛す」を讃美し、お祈りを捧げます。

祈　り　天地の主である神様、「わたしの恵みはあなたに対して十分である。わたしの力は弱いところに完全にあらわれる」という御言葉を信じ、今も生きておられるキリストに縋って行きます。サタンは弱さ、足りなさを数えるように誘惑してきます。私たちは弱い者ですが、しかし主が与えて下さった恵みを数えつつ、この弱い私たちを通して主の量り知れない力が表されることを信じ、主に縋って行きます。恵み深い神の聖霊によって私たちに祈りを与え、日々に導いて下さい。私たちの祈りを聴いて下さる救主イエス・キリストの尊い御名によって祈ります、アーメン。

参考文献コリント注解―黒崎、バークレー、竹森、フランスコ会、ＬＡＢ、文語略解、西川、モリス。