我らは十字架によるキリストの救いに感謝し、恵みをほめ讃える

我らは十字架によるキリストの救いに感謝し、恵みをほめ讃える。ルカ23：32－56　主の2006.4.9礼拝

イギリスの伝道者ビリー・ブレーは元ボクサーでした。ある日、かつて散々リング上で叩きのめしたことのあるボクサーに街で出会った。ビリーがクリスチャンになったことを聞いていた相手は、昔やられた怨みを晴らす時とばかり、挨拶に立ち止まったビリーにいきなりパンチを一発食らわせた。クリスチャンになる前のビリーなら、すぐ反撃し、やられた何十倍ものパンチを相手に食らわせていたはずです。しかしビリーは手を出さずに、「私はあなたを赦します。神もまたあなたを赦されますように」という言葉をかけた。相手は、「きょうは気分がよかった」と思いつつ帰ったが、何故かビリーの言葉が心に引っかかっていた。忘れようとすると、なおさら強くその言葉が迫ってくる。その言葉がずっと心を離れない。そのため、遂に彼は教会に行き、罪を悔いてクリスチャンになったということです。

本日はルカ２３：３２－５６です。この個所には、キリストの十字架のこと、キリストが死んで葬られたことが記されています。３４節に「父よ、彼らをお赦し下さい」というキリストの祈りがあります。キリストは、十字架に両手両足に釘を打ち込まれた直後に、自分を殺そうとしている者達のために、赦しと救いとを願って、この愛の祈りを捧げています。ビリーがいきなりパンチを食らわせた相手を赦すことができたのは、全ての人の罪の身代りになって下さったキリストを信じ、心がキリストの愛に満たされていたからです。ここにいる大部分の方々はキリストを信じておられます。キリストの救いを求めている方々もいると思いますが、今この時に「イエス様を信じます」という祈りを捧げるならば、即座に救われ、神の子になることができます。来週、洗礼式があります。さらに、今月中に洗礼を受けようと準備している方々もいます。ここにいる全ての方々が、罪の赦しと共に心に愛を満たすために十字架にかかって下さったキリストの恵みをほめ讃へ、来週のイースター〈主の復活祭〉に向って進んで行くように祈ります。

今週はキリストが地上で最後の時を過ごされた受難週です。特に金曜日は、キリストが朝９時に十字架にかけられ、午後３時に息を引き取った主の受難日（受苦日）です。それぞれの生活の中で、今週は一日に一度、心を静めて十字架のことを思い巡らす時をもち、次週１６日の喜びのイースターに向って、祈って進んで参りましょう。

内容区分

1、キリストの十字架は、無限の赦しの源である。23：32－34

2、キリストの十字架は、新生と永遠の命の源である。23：35－49

3、キリストの十字架は、信仰の奉仕の源である。23：50－56

資料問題

四福音書とも、それぞれ約三分の一を、キリストの地上最後の一週間の出来事、十字架、復活について記している。何故なら聖書の中で最も大事なことはキリストの十字架と復活の二点に集約されるからである（Ⅰコリント15：1－11）。３４節は十字架上でキリストが語った七つの言葉の最初の言葉。（十字架上の七語、①ルカ23：34、②ルカ23：43、③ヨハネ19：26－27、④マタイ27：46、⑤ヨハネ19：28、⑥ヨハネ19：30、➆ルカ23：46）。

４０－４２節、ひとりの犯罪人の回心、４３節、キリストの救いの言葉、４４節、太陽が輝きを失ったこと。以上の事柄は他の福音書にない記録である。

1.キリストの十字架は、無限の赦しの源である。23：32－34

イエスは言われた、「父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」（23：３４）。

今週はキリストが十字架にかかって死んだ週で、受難週と呼ばれています。受難週第一日目、キリストは小さなロバに乗り、大勢の群集の歓迎を受けながらエルサレムの都に入りますが、それがきょうの日曜日です。木曜日に弟子達と過越（すぎこし）の祭を祝い、食事を共にされます（最後の晩餐、聖餐式の起源）。それからゲッセマネの園で、血を流して徹夜の祈りをささげ、十字架につくことが神の御旨であると確信します。ユダの裏切りによって、キリストは逮捕され、不正な裁判によって金曜日の朝九時に十字架につけられます。午後三時に息を引き取り、日が沈む前に（日が沈むとユダヤでは次の日になり、安息日になり何も出来ない）、遺体に布が巻かれ、岩をくり抜いた墓の中に安置されます。次が土曜日、その次が日曜日で、三日後の日曜日にキリストは死を滅ぼして甦ります。

キリストが十字架の上で言われた言葉が七つありますが、３４節は十字架につけられた直後に、最初に言われた言葉です。ルカ２３章の中で、キリストを３回も取り調べたロマ総督ポンテオ・ピラトが、「キリストには罪がない」と言っています。しかしキリストを憎む人々の悪巧みによってキリストは死刑を宣告されます。死刑宣告に対し、キリストは弁明せずに十字架に向かって行きます。それは、キリストが全ての人の罪を背負って、罪の身代りになって死ぬ事を決意していたからで、キリストは黙々と、進んで十字架の死を受け入れているのです

キリストはエルサレム市内から死刑場であるゴルゴタの丘に引き回されて行きます。朝９時に、キリストは裸にされ、十字架に両手両足を釘付けにされます。十字架につく前、既に背中にロマ兵のムチを受けて出血し、今度は両手両足から血を流し、苦しみの絶頂の時に、キリストは自分のためにではなく、人の救いのために祈っています。それが３４節の祈りの言葉です。パピニ（イタリヤの作家。無神論からカトリックに回心。1881－1956）は、「人間が祈りはじめるようになってこの方、未だかつてこれ以上に神聖な祈りが天に挙げられたためしはない」と言っています（「キリストの生涯」）。この祈りは最高の赦しの言葉です。キリストは、「父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」と祈っておられます。この祈りは、相手を悪人として祈っているのではないのです。「彼らは何もわからずにいるのです」という最高の善意をもって祈っています。本当は相手が悪いのです。キリストには何らの落ち度も罪もありません。しかし相手を責めず、審かず、キリストは善意の塊（かたまり）になって、「彼らは何もわからずにいるのです」という言葉をもって、相手のために無条件の赦しを求めて祈っています。善意がなければ人を赦すことはできません。キリストは、自分を殺そうとしている相手に対し、限りない善意をもって、自分が謙って、相手の救いのために祈っています。

真珠は大変に美しい光沢をもっています。どうして、あんなに美しい真珠ができるのでしょうか。あこや貝の中に小石や貝のかけらなどの異物が入ります。すると貝の内側から炭酸カルシウム性の分泌物を出して異物を包み、美しい丸い真珠の珠（たま）にしてしまうのです。もし異物を外に押し出せば、それはいつまでも異物のままであり、貝も傷つきます。あこや貝は、自分が傷つかないように異物を包み込んで自分の身を守り、異物を美しい真珠にしてしまうのです。人々は、美しい真珠が、以前は貝のかけらなどの異物であったことを知らずに、その美しさを愛（め）でます。キリストは、自分を殺そうとしている人々のことを、「父よ、彼らを滅ぼして下さい」とは祈りませんでした。反対に、「父よ、彼らをお赦し下さい」という愛の祈りで相手を包みこんでいます。ペテロは「愛は多くの罪を覆うものである」（Ⅰペテロ4：8）と言っています。罪を覆う愛の印はキリストの十字架です。ご自分には何の落ち度もないのに、キリストは相手の落ち度や罪の身代りになって十字架に上り、相手の赦しを祈っています。イザヤは、「キリストは我々の咎のために傷つけられ、我々の不義のために砕かれたのだ。キリストは自ら懲らしめを受けて、我々に平安を与え、その打たれた傷によって、我々は癒されたのだ」と述べています（イザヤ53：5）。あこや貝は自分の中から分泌物を出して異物を包み、美しい真珠に変えています。キリストは十字架上で、ご自分のきよい尊い血を流して、私たちの罪や過ちを包み、赦し、癒し、私たちを新しい人間に造りかえて下さる愛の救主です。

キリストの、「父よ、彼らをお赦し下さい」という祈りは私たちひとり一人に向けられている祈りです。クリスチャンの方々は罪を赦され、救われていることを感謝しましょう。キリストを求めている方々は「私もイエス様を信じます」と祈って行けば、キリストの救いを、今、この時に受けられます。

2、キリストの十字架は新生と永遠の命の源である。23：35－49

イエスは言われた、「よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。（23：43）

キリストの十字架の周りには、ロマ兵、役人、民衆など大勢の人々が集っています。キリストが十字架上で語った言葉は多くの人々の耳に届いたはずです。しかし、キリストがどのような死に方をするのかという野次馬根性で集っているので、キリストの思いは彼らに伝わっていません。キリストの十字架の両隣には、実際に犯罪を犯した死刑囚が十字架にかけられていました。この二人も最初はキリストを罵り、悪口を言い続けていました（マルコ15：32）。ところが、その一人がキリストに向かって、４０－４２節という告白をしています。もう一度読んでみます。彼は、人々の赦しのために、愛をもって祈っているキリストの十字架上の姿に心を打たれ、自分の犯した罪の重さに気づき、命が尽きる前に、自分が永遠の滅びの中に行くことがないように、キリストに赦しと救いとを求めています。

キリストこそが私たちを新しく生まれ変わらせ（新生、再生）、天国に連れて行って下さる永遠の命の源です。キリストの救いの特徴を三つ挙げてみます。

第一に、キリストの救いは即座に与えられます。この犯罪人は死ぬ直前ですから、もう自分の力で人生をやり直す時間はありません。死刑になるぐらいですから、悪の人生を送り、誰が見ても、救われ難い極悪非道の人間であったと思われます。しかし、彼が自分の罪を告白し、悔改め、キリストに赦しと救いとを求めた時に、キリストは即座に彼を赦しています。即座に彼を生まれ変わらせ、即座に永遠の命を与え、きょう神のパラダイスに連れて行くという約束をしています。キリストの救いに、今この時に縋って行くことが大切です。「わたしは恵みの時にあなたの願いを聞きいれ、救いの日にあなたを助けた。見よ、今は恵みの時、見よ、今は救いの日である」と言われています（Ⅱコリント6：2）。今というこの時を大切にして、主に固く結びつき、主に縋り続けて行きましょう

第二に、キリストの救いは徹底した赦しです。中風の人が連れて来られた時、キリストは「子よ、あなたの罪は赦された」と彼の罪を赦し、病の癒しを与えています（マルコ2：1－11）。姦淫の女性に対し、「わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。今後はもう罪を犯さないように」と言われ、彼女に罪の赦しによる自由を与えています（ヨハネ8：1－11）。

第三に、キリストの救いは全ての罪をきよめ、トラウマ（心の傷）になりません。ある老人が牧師の所に来て告白した。「私は今までずいぶん人の悪口を言いました。うそもつきました。こんな私ですが天国に行きたい。でも罪が多すぎる、どうした良いでしょうか」。「おじいちゃん、家に帰って枕から一握りの羽毛をとってきて下さい。教会にくる道に、それを落としながら来て下さい」。老人は言われた通りにして牧師の所に戻って来た。「それでは、今度は羽毛を一ずつ拾い集めに行って下さい」。「エッ、そんなバカな。羽毛はみんな風に吹かれて、もう手にすることなどできません」。「そうですね。罪も同じです。過去の罪は取り返しがつきません。しかしキリストがおじいちゃんのために十字架にかかって全ての罪を赦して下さっています。神様は、『わたしはあなたの咎を雲のように吹き払った』（イザヤ４４：２２前半）と言われています。これまでに犯した罪の数々を神様の前に告白して下さい。そして同じ罪を繰り返さないように祈って下さい。『もし、わたしたちが自分の罪を告白するならば、神は真実で正しいかたであるから、その罪を赦し、すべての不義からわたしたちを清めて下さる』（Ⅰヨハネ1：9）という神様の御言葉は真実です。神様は、キリストの十字架によって、きれいさっぱりとおじいちゃんの罪を赦してくれ、天国に迎えて下さいます」。老人は真心から罪を悔改め、キリストを信じる喜びを得ることが出来たのです。

3、キリストの十字架は、信仰の奉仕の源である。23：50－56

この人がピラトの所へ行って、イエスのからだの引き取り方を願い出て、それを取り下ろして亜麻布に包み、まだ誰も葬ったことのない、岩を掘って造った墓に納めた。（23：52－53）

来週はイースターです。キリストが亡くなった時に、弟子達は誰も遺体を引き取りに来ていません。アリマタヤのヨセフという最高議会の議員が、キリストの遺体をピラトと交渉して引き取り、丁重に亜麻布に包み、自分の墓に葬っています（マタイ27：60）。ヨハネ福音書には、夜ひそかにキリストの許に行って、「誰でも新しく生まれなければ、神の国を見ることはできない」（ヨハネ3：3）という教えを受けたニコデモが、没薬と沈香もって来て、キリストの遺体を葬る手伝いをした事が記されています（ヨハネ19：38－42）。もし、この二人がいなければ、キリストの死体は放置されたままで、獣に食われてしまい、キリストの復活の計画がだめになってしまったかもしれません。キリストの十字架を通して、二人の隠れた弟子が現れ、キリストの復活に備えて、遺体を葬る奉仕をしています。キリストが身を裂き、血を流しつつ「父よ、彼らをお赦し下さい」いう祈りを聞き、キリストが尊い命を捧げられた愛に感動し、彼らは隠れクリスチャンから公のクリスチャンとなり、主のために奉仕をしています。私たちも、人に喜ばれ、人に見せるのではなく、命を捧げて私たちを救って下さったキリストの愛に応えて、それぞれの奉仕をして行くように祈りましょう。キリストのためにする奉仕は喜びであり、長続きします。教会一同が全体の祝福のために、そして様々な奉仕者のために祈っています。各部門、各分野で多くの方々が忠実に奉仕に励み、それによって教会の働きが支えられている事を感謝します。これからも、何をするにもキリストの十字架の恵みに感謝し、聖霊の力を受け、喜びをもって主に仕えて行くことができるように、共に祈って行きましょう。

まとめ

1、23：34、キリストの十字架は無限の赦しの源です。キリストの愛を求めて祈りましょう。愛は多くの罪を覆うことを信じ、愛をもって人のために祈り、人に仕えて行きましょう。

2、23：43、キリストに罪を告白し、悔改め、赦しと救いを求めるならば、誰でも罪を赦され、神に立ち返り、永遠の命を与えられます。キリストの救いは即座に与えられる徹底した赦しであり、全ての罪を清めるものです。

3、23：52－53、キリストの十字架の愛に感謝をもって、皆で祈り、奉仕を継続して参りましょう。

＊キリストの十字架の恵みを讃美しましょう。聖歌３９９番です。讃美の後に祈ります。

祈　り　天の神様、独り子イエス・キリストを遣わし、十字架による救いを与えて下さったことを感謝します。キリストが「父よ、彼らをお赦し下さい」と祈り、十字架の上に私たちの罪の身代りになって下さったことを感謝します。今週、一日に一度は静まり、キリストの十字架を深く思い、聖霊によって祈りを導いて下さい。来週のイースターを喜びのうちに迎えることができるように導いて下さい。十字架で私たちの罪を贖って下さったイエス・キリストの御名によって祈ります、アーメン。

参考文献ルカ注解―黒崎、米田、文語略解、ＬＡＢ、バークレー。「若き魂への福音」、「心と心の伝道」、「キリスト教例話集」