沈黙の信頼　詩篇62：1

沈黙の信頼　詩篇62：1－11　　　　　　　　　　主の2006.8.6礼拝

イスラエルにエリヤ（B.C869－849）という預言者が登場したことがあります。彼はカルメル山上でバールの預言者４５０人と対決し、最後に彼らを剣によって滅ぼし勝利を得ます。ところがバールの預言者を保護していたイゼベル女王に命をつけ狙われ、彼は４０日４０夜をかけてホレブの山（シナイ山の申命記的名称）へ逃げ込み、神様の助けを求めます。神様に「山の上で会う」と言われ、待っていました。すると大きな強い風が吹き、山を裂き、岩を砕いたのですが、主なる神は大風の中にいませんでした。風の後に地震が起き、その中に主なる神がおられると思ったのですが、おられませんでした。地震の後に火が燃え上がりましたが、火の中にも主なる神はおられませんでした。すると火の後に静かな細い声が聞こえてきました、それが主なる神の声であったのです（列上１９章）。

本日は詩篇６２篇です。１節、５節で、ダビデは「わが魂は黙（もだ）してただ神をまつ。わが救いは神から来る。わが望みは神から来る」と歌っています。主の声は心を静め、世の雑音から離れる者の心の中に響いてきます。エリヤは静まった時に、神様の細い静かな声を聴くことが出来ました。岩を砕く大風の中にも、大地を揺るがす地震の中にも、激しく燃える火の中にも、主なる神はいませんでした。ただ、エリヤがひたすら主なる神に縋る思いをもち、謙り、静まった時に、主なる神の救いの言葉が、霊妙なる笛の響きのように彼の心に響いてきました。

今朝、静まりましょう。私たちは一週間を仕事、学びですごしてきました。あるいは人間関係で疲れ、経済的問題で苦労をし、病気の方々もいることと思います。キリストは言われます、「すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとに来なさい。あなた方を休ませてあげよう」(マタイ11：28)。今朝、心を静めましょう。８節に「民よ、いかなる時にも神に信頼せよ」とダビデは歌っています。信頼する者に主なる神様が答えて下さいます。主の御言葉に耳を傾け、祈って、新しい一週間を出発いたしましょう。

内容区分

1、わが救いは神様から来る　62：1－4

2、わが望みは神様から来る　62：5－8

3、救いと望みの神様に縋って行こう　62：9－12

資料問題

本詩篇は、４，１６，１３１篇などと共に神への信頼を表した詩の部類に入る。表題にあるエドトンの名は、ダビデ宮廷の音楽指揮者のひとりとして、しばしばアサフとともにあげられている（歴上１６：３８，41,42,25：1,3,6）。

1,5節「黙（もだ）す」、呟かぬこと、悪あがきをしないことである。１1節「ひとたび言われた・・ふたたび聞いた」、ヘブライ詩では、あることを強調するために数を増やしていく叙述法がある（ヨブ40：5、箴言6：16－19、30：15,18,21,29.アモス1：3,6,9,11）。

1、わが救いは神様から来る　62：1－4

わが魂は黙（もだ）してただ神をまつ。わが救いは神から来るからである。神こそわが岩、わが救い、わが高きやぐらである。わたしはいたく動かされることはない（決して揺るがされない）。（１－２節）

ダビデは歴戦の勇者です。彼は若い頃羊飼いをしていました。熊やライオンが襲って来て、子羊をくわえて行こうとした時に、彼は熊やライオンを撃ち殺し、子羊を救い出しています。少年時代に自分の身長の倍もあるような巨人ゴリアテと一騎打ちをして、石投げで相手の額に石を命中させ、その一発で巨人を倒しています（サム上17：31－54）。また彼は軍人として戦場に出かけ、数々の勝利を得ています。

ところが、この詩篇でダビデは「ただ神をまつ」という信仰に立っています「ただ」というのは神様だけに、神様のみに信頼して、人間的な一切の力を捨てて、ひたすら心を神様に向け、神様だけに救いを求めている姿を示しています。「わが魂は黙（もだ）してただ神をまつ」とあります。「黙（もだ）して」というのは、第一に呟かないことです。あれこれ呟き、文句を言わないということです。第二に悪あがきをしないことです。私たちは困難に出会った時にすぐ呟いてしまいます。「神を信じ、キリストを信じている」と口では言っていても、何と私たちの唇には不平不満が多いことであろうかということを思います。また私たちは、苦境に陥ることがありますが、その時に慌てふためいてしまいます。「悩みの日にわたしを呼べ、わたしはあなたを助ける」（詩篇50：15）と約束されているのに、祈ることを忘れてしまい、不平を撒き散らし、不満を人に訴えてしまいます。３－４節にあるように、人が自分に迫って来るという怖れを感じて、神に頼る信仰が働かなくなってしまいます。

しかし、どんな状況になろうが、ダビデはひたすら歌っています「わが魂は黙してただ神をまつ。わが救いは神から来る。神こそわが岩、わが救い、わが高きやぐらである。わたしはいたく動かされることはない」・・・ダビデは、常に神様が共にいて下さる、神様が守って下さるという信仰に立っています。彼が信じる神様は天地を造られたまことの神様です。ダビデは、主なる神様は私たちに命を与え、私たちを見捨てることをしないで、常に守って下さるというお方であるという信仰をもって神様に縋っています。

今、ここで神様への信仰ということを考えてみましょう。ある方は、信仰ということを次の例から説明しています。それはサル式信仰と猫式進行です。サルの親子と猫の親子がいます。サルの親子は、母ザルが手足を使って木から木へと移動するので、子ザルは母親のほうにしがみついていなければ振り落とされてしまいます。母猫は子猫をくわえて運び歩くので、子猫が少しぐらい眠ったりしても振りおとされるということはありません（北森嘉蔵牧師の説明による）。

では、私たちの信仰は、どちらでしょうか・・・サルのように自分の力で必死になって、頑張って落ちないようにということを願っている、ビクビクしている信仰でしょうか。それとも、くわえてもらっているから大丈夫と言う安心感をもち、任せて行く信仰でしょうか・・・私たちの信仰はサル式ではなく、猫式です。主なる神様は私たちに言われます、「生まれ出た時から、わたしに負われ、胎を出た時から、わたしに持ち運ばれた者よ」（イザヤ４６：3）。母猫が子猫をしっかりくわえて離さないように、神様が私たちの信仰を守り、私たちを見捨てずに、天国にまで導いて下さるのです。ダビデは「ただ黙（もだ）して」ひたすらに神様に信頼しています。これは神様に対する深い信仰の思いがあるからです。私たちも信仰の思いを深めて、神様に信頼して行くように祈りましょう。

2、わが望みは神から来る　62：5－8

わが魂は黙（もだ）してただ神をまつ。わが望みは神から来るからである。民よ、いかなる時にも神に信頼せよ。そのみ前にあなたがたの心を注ぎ出せ。神はわれらの避け所である。（５，８節）

イタリアの詩人ダンテ（1265－1321）は天国、煉獄（カトリックの教えにある）、地獄の様子を描いた「神曲」の作者です。「神曲」は、神様について、死後の世界について、ダンテが詩人として瞑想し、考えた文学作品として知られており、今日まで読み継がれています。「神曲・地獄篇」に、地獄の門に「われをくぐりて　汝らは入る　なげきの町に・・・・一切の望みは捨てよ　汝ら　われをくぐる者」と記されています。すべての望みを断たれ、望みを捨てる所が地獄であるというのは鋭い洞察力です。日本では一時間あたり３人の人が自ら命を絶っています。原因はいろいろですが、希望を失うことが生きる気力を奪い取ってしまうと言われています。ダビデは６節に来て、再び「わが魂は黙（もだ）してただ神をまつ」という信仰を言い表し、続いて「わが望みは神から来るからである」と告白し、どんなに追い詰められても、私たちには希望があるということを歌っています。何故なら、「神様は善にして善をなされるお方であり」（詩篇119：68）、「神様は愛であって、私たちを愛して下さるお方です」（Ⅰヨハネ4：8－12）。この神様を信じる者に、必ず望みが与えられ、神様は全てのことを善に換えて導いて下さいます。

新約時代に生きる私たちには、神様を見える形で現して下ったイエスキリストがおられます。「神を見た者はまだ一人もいない。ただ、父の懐（ふところ）にいる独り子なる神イエスキリストだけが、神をあらわしたのである」（ヨハネ1：18）と言われているように、キリストは神を明らかにされたまことの救主です。

キリストが来られて、どんな人でも罪を悔改めてキリストに縋れば、新しい人生が与えられるという希望が確かなものになりました。キリストは、姦淫の罪を犯した女性に「今後はもう罪を犯すな！」という赦しと励ましとをもって、この女性に再生の人生を与えています。

キリストが来られて、人が見捨てても、キリストは人を見捨てないで助け下さるという希望が確かなものになりました。キリストは、悪霊に憑かれて気が狂い、鎖で縛られたのに鎖を引きちぎり、裸になって体中を自ら傷つけ血だらけになり、日夜墓場で狂い喚く男性に近づき、ただの一言葉で悪霊を追い出し、彼を正気に立ち戻らせ、家族の許に返して下さっています(マルコ5：1－20)。

キリストが来られて、罪が赦されて新しく生まれ変わり、死を越えて永遠の天国に行けるという希望が与えられ、全ての人が救われ天国に行けるという希望が与えられています。キリストは人の罪の身代りになり、「父よ彼らを赦したまえ」（ルカ23：34）と祈って下さった救主です。キリストは十字架の死後３日目に死を滅ぼして甦へり、永遠に生きておられる唯一の救主です（コリント第一15：1－3）。

ダビデは、「わが望みは神から来る」と歌っています。私たちの信じる神様はキリストによって現された望みの神様です。有名な漫画「サザエさん」のことを大部分の方々が知っておられると思います。作者は長谷川町子さんでクリスチャンです。この方のお母さんがクリスチャンで、町子さんも信仰を受け継いだのです。町子さんは田川水泡（1899－1989）という漫画家の住み込みの弟子になります。日曜日に、町子さんが田川水泡に「教会に行かせて下さい」と頼み、田川水泡夫妻も町子さんに付き添って教会に行くということになり、やがて夫婦で洗礼を受けます（水泡の奥さんは高見沢潤子というクリスチャン作家です）。水泡氏はこう言っています、「神の存在を信じられないという人がいる。だが悪魔の存在はすぐに信じてしまう。易者に見てもらって、家相が悪いと言われると、引越しをするということがある。何の根拠もなくて悪霊を信じるのに、どうして神の愛が信じられないのでしょうか」。田川水泡氏の言うように、神様は愛です。神様の愛はキリストの十字架と復活とによって表された確かなものです。キリストは生きている永遠の救主です。ですからキリストに縋れば、望みをもって生きる力が与えられます。

キリストを信じて「民よ、いかなる時にも神に信頼せよ。そのみ前にあなたがたの心を注ぎ出せ」という御言葉に従って行くことが大事です。これは言葉を換えて言えば、心の底から一生懸命にお祈りしなさいということです。お祈りする時に、次の御言葉を心に留めましょう。

生ける人はどうして呟かねばならないのか、人は自分の罰せられるのを、呟くことができようか。われわれは自分の行いを調べ、かつ省みて、主に帰ろう。われわれは天にいます神にむかって、手と共に心をもあげよう。（哀歌3：39－41）

手だけを天にさしのべて、心は地上に残したままのクリスチャン、神様に従うことを忘れた者であってはならないのです。神様が喜ぶのは、キリストを信じて、神様に縋る、悔い砕けた魂です。キリストに縋りついて祈りましょう。必ず希望が与えられ、道が開かれます、祈りましょう。

3、救いと望みの神に縋って行こう　62：9－12

神はひとたび言われた、わたしはふたたびこれを聞いた、力は神に属することを。主よ、いつくしみもまたあなたに属することを。（１１－１２節前半）

静まっているダビデの心に主の声が響いてきます。９－１０節にありますが、「人を恐れるな」ということです。また「富に頼るな」ということです。そして１１－１２節を通して、ダビデの心に響くのは、繰り返し言われている言葉ですが、力は神にある、いつくしみ、あわれみ、恵みも神様にあるということです。神様の力は愛の力であり、いつくしみ、あわれみ、恵みも愛という言葉で言い表すことができます。神様は愛です、神様の愛の力はキリストの十字架によって現された愛です。キリストの十字架によって救いが与えられます。キリストの十字架によって全ての人が愛され、救われるという望みが与えられます。今、戦争が拡大しつつあります。私たちの国にもミサイルの照準が向けられています。個人的には様々な問題を抱えて生きています。だが、いかなる事が起きようとも、神様は天地万物を創造されたまことの神様です。神様が私たちを守ります。神様が人の心をつくり変える力をもっておられます。神様が私たちの祈りに耳を傾けて下さいます。

私がクリスチャンになった頃、「南米エクアドルのジャングルで、アメリカ人宣教師５名が現地人によって槍で殺され、殉教した」というニュースが伝えられ、驚いたことがあります（１９５６年１月の出来事）。しか、しもっと驚いたことは、その２年半後に宣教師の未亡人たちが子ども達を連れて、同じ場所へ伝道に行き、何と宣教師を殺した現地人が回心し、教会が建ち、伝道者が起こされたということです。この事は4０年ほど前のベルリン世界宣教大会で報告がなされています。宣教師未亡人たちが伝道に行った時に、現地人のひとりで宣教師を殺した者がやって来て、「あなたたちの創造主と言われる神様は力のある方なのか」と尋ねた。宣教師の未亡人が「神様は全てを創造されました。この土も創られました」と答えた。「私の心は土のように汚いが、それを変えるぐらい力があるのか」と言うので、「神様はあなたの心を変えることができる方です」と答えた。翌朝、彼がやって来て「神様に願ったら、自分の心は変えられた。私の心は澄み切っている。あなた方の神様は本物だ」。その出来事が現地人全体の心を変えて行く原動力になって行きます。

＊主なる神様には力があり、いつくしみ（恵み、あわれみ）があります。神様は愛です。キリストの十字架によって、人を殺した罪人の心をキレイにし、新しい人生を歩ませることの出来るお方です。人の心を造り変える神様が、私たちの祈りを聴いて下さいます。先ず心を静めて、心の底から神様に信頼し、縋りましょう。あなたの求めることを主なる神様はご存知です。ですから謙り、心を神様に向けて祈りましょう。心からの信頼をもって縋る私たちの祈りに答が与えられます。

まとめ

1、62：1－2、私たちの救いは主なる神様から来ます。まず神様の前に、全てを委ね、黙（もだ）して神様に縋る思いをもって祈りましょう。

2、62：5,8、私たちの望みは主なる神様から与えられます。キリストによって現された恵みに感謝しましょう。何があっても、いかなる時にも神様に信頼し、キリストの御名によって祈りましょう。

3、62：11－12前半、救いと望みを与えて下さる神様は力といつくしみの神様です。私たちの求めるところを神様に祈って行きましょう。

祈　り　　

天地の主である神様、救いと望みが神様から来ることを信じます。毎日神様の前に静まり、恵みを数えて感謝する心を与えて下さい。イエスキリストによって現された神様の恵みに感謝します。神様には愛の力があります。またいつくしみが豊かです。宣教師を殺した人の心を造り変える力があることを知り、感謝します。人の心を造り変える神様が、きょう私たちの求め願う祈りに豊かに答えて下さることを信じます。どんな時でも慌てないで、黙（もだ）して神様の救いに信頼して行くように導いて下さい。私たちの救主イエスキリストのお名前によってお祈り致します、アーメン。

参考文献詩篇注解―浅野、ナイト、岸井、黒崎、フランシスコ会、口語略解、新共同訳略解。　　「聖書事典・日本基督教団」、「神曲・寿岳文章・集英社」、「ジャングルの五人の殉教者」、「サザエさんうちあけ話・長谷川町子」